名前いくつ挙げられますか?太古と現代生物種の架け橋「生きた化石」(上)
身近な存在としての「生きた化石」
生きた化石の例は、かなり身近な(TVなどでよく見かける)生物の中にもいくつか知られてる。ここに生きた化石の代表的なものあげてみたい。 -「サメ」:軟骨魚の中でも現在最も種の数が多い(約500種が世界各地の海洋に確認されている)。古生代中頃(デボン紀後期から石炭紀初め)の地層から最も古いサメの記録(3億7千万年前のCladoselache等)が知られている。以来、現在まで時空を超え、世界各地の海洋で「トップ・プレデター(捕食者)」として君臨し続けてきた。独特の流線型の体つき、鮫肌とよばれる頑丈な皮膚(うろこ)、丈夫で鋭く尖った歯。こうした形態は、進化上あまり変わることなく(=失われることなく)、ハンターとしての大きな役割をはたしてきた。そのため映画「ジョーズ(1975)」のテーマ音楽は、古生代のサメの仲間にも十分合うはずだと想像される。 -「イチョウ(銀杏)」:イチョウ綱(Ginkgoopsida:原始的な針葉樹のグループ)に属す。石炭紀前期にはじめてその祖先が現れて以来、中生代にかけて多くの種が世界的に分布していた。普段、日本の街中でよく見かけるイチョウの木だが、現在、一種(Ginkgo biloba)だけしか生き残っていない(注:いくつか品種もある)。ちなみにこの現生種は、中国の一部に源を発すると考えられている。そのため(11世紀以降)人間によって、ヨーロッパやアメリカ大陸に持ちこまれた ── いわゆる「終わりなき侵略者・外来生物」としての可能性が高い。 -「ゴキブリ」:ゴキブリ目(Blattodea)に属す昆虫の仲間。現在、世界各地に4000種近く知られているが、その祖先は同じく石炭紀と考えられている。その独特の体つき ── 日本に住んでいる多くの方にとっては、いやでも馴染みが深いはずだ ── は、何億年もの間、環境の大激変や捕食者動物たちの脅威をもろともせず、今日まであまりかわることなく、引き継がれてきた。そして今日、各家庭の台所において所狭しと「招かれざる客」として、その多様性を我々に見せ付けている(やれやれ)。 -「シーラカンス」:シーラカンス属(Latimeria)。肉鰭類綱(Sacripterygii)-肺魚亜綱(Dipnoi)に分類されている硬骨魚(=条鰭綱(じょうきこう)Actinopterygii)。先にダーウィンのくだりで紹介したように、現生の肺魚は全て淡水にすんでいる。しかし、現在、このシーラカンスは海洋 ── しかもかなり深い水域(深海)-に生息していると考えられている。そのため独自の「シーラカンス目(Coelacanthiformes)」に分類されている。 シーラカンス目において、今のところ現生のものは2種(L. chalumnaeとL. menadoensis)が知られているだけだ(前者はアフリカ沖の太平洋;後者はインド洋の一部から発見された)。1938年12月、南アフリカの漁師によって偶然、生きたシーラカンス個体が初めて捕獲された。この有名な発見は瞬く間に世界中にニュースとして流れ、研究者の注目を集めた。(この出来事を耳にしたことのある方は多いのではないだろうか?) というのも、世界各地の古生代後半から中生代の地層から、たくさんシーラカンスと近縁な種の化石が見つかる ── しかし、その後、ほとんど化石記録からその姿を消しているからだ。そのため白亜紀末までに全てのシーラカンス目の種が「大絶滅に巻き込まれた」と、この発見時まで信じこまれていた。 この地球には、まだまだ我々の知らない生物種がどこかでひっそりと生きているはずだ。しかし、このシーラカンスほど、化石記録と現生のものをつなぐ「生きた化石」としてのメッセージ性を持つものは、他にいないかもしれない。