新型コロナ以外の国内治験も進みmRNAワクチンが発展する【2025年の医療を予想する】#4
【2025年の医療を予想する】#4 コロナ禍の真っ最中に登場したのが「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」です。コロナウイルスの遺伝情報を持たせた合成mRNAを体内に打ち込むと、細胞に取り込まれてウイルスの抗原タンパク質を生産し、人体の免疫機能がそのタンパク質に対する抗体を作り出す、という仕組みです。アイデア自体は以前からあったらしいのですが、実現したところが画期的でした。 インフルに加えてコロナ急拡大が9連休を直撃! 年末年始の「感染ドミノ」はこうして回避する さらに今年は日本のメーカーが、世界初の「レプリコンワクチン」を発売しました。レプリカーゼという酵素の働きで、体内でmRNAのコピーが作られるというものです。mRNAは体内で急速に分解されてしまうのですが、コピーが作られ続けるお陰で見かけの分解速度が遅くなり、それだけワクチンとしての効果が高まるとされています。 ただ、新型コロナは怖い病気ではなくなってきました。しかもワクチンは有料(65歳以上で約7000円、それ以外は1万数千円)です。そのためわざわざ打つ人が激減してしまい、せっかくのレプリコンワクチンも、良かれ悪しかれその威力を示す機会を逃してしまいました。 しかしmRNAワクチンの技術は、新型コロナのみに有効というわけではありません。国内外のメーカーが、別の感染症に対するmRNAワクチンの開発に挑んでいます。 なかには日本国内で治験が進んでいるワクチンもあります。代表的なものは季節性インフルエンザです。新型コロナと抱き合わせて、1回の注射で済むようにしたものが、治験の第Ⅲ相まで進んでいます。ほかにもノロウイルス、サイトメガロウイルス、RSウイルスをターゲットとしたmRNAワクチンの治験が行われています(いずれも第Ⅲ相)。また海外ではHIVに対するワクチンの開発も進められています。 ノロウイルスは冬の食中毒(胃腸炎)を引き起こすことで知られています。変異が速く、ワクチン開発は無理と言われていただけに、もし成功すれば受験生をはじめ多くの人が恩恵を受けるでしょう。RSウイルスは子供の風邪ウイルスの一種ですが、大人や高齢者にもうつることがあり、体力や免疫力が落ちていると重症化するケースがあります。 これらの新しいワクチンの治験は、早いものでは2025年中、遅いものでも2027年中に終了し、国の審査を経て、上市されてくるはずです。さらにその後も、新しいmRNAワクチンが続々と開発されてくることでしょう。ワクチン新時代の幕開けです。 (永田宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授)