「8番投手」の”ラミ流采配”迷走で横浜DeNAが自力V消滅
「初球にインサイドにストレートが来るかなと、思い、引っ張る指示を出した。残念ながら空振りに終わり、バントに変えた。戸柱が二塁走者でダブルプレーのリスクがあったのでより安全策を取ってバントにしたんだ」とは、ラミレス監督の説明である。 中日バッテリーはバントを警戒していた。失敗を誘うセオリーのボールのひとつであるインハイのストレートを投げてくるのではないか、と読んで裏をかいた強攻策である。ちなみに今季の大貫はまだヒット1本しか記録していない。 だが、投じてきたボールはスライダーで、しかも空振り…ラミレス監督はサインを「バント」に変えた。 大貫は2球目にバントを仕掛けたが、ファウルとなった。ツーストライクとなり、大貫は三塁の上田コーチのサインを見たが理解できなかった。自らタイムを取り、もう一度、サインを要求すると上田コーチが歩み寄ったため、大貫も動き、直接、言葉でサインを確認した。チャンスに見せたドタバタ。観客席からは「何やってんだよ!」の声が飛んだ。 3球目のボール球をバントの構えのまま見逃した大貫は4球目をバントした。だが、ワンバウンドで、立ち上がったキャッチャーのミットに収まる失敗バント。木下に三塁封殺されてしまう。併殺だけは避け、二死一、二塁に走者が残ったが、倉本はレフトフライに終わり「8番・大貫」「9番・倉本」の”ラミ流采配”は不発に終わった。 今季ラミレス監督は広島との開幕戦から「8番・今永」「9番・大和」の「8番・投手」を採用し、ここまで74試合中、27試合に「8番・投手」のラインナップを組んでいる。いつ、どういうタイミングで、この作戦を使うのかの判断基準は定かではないが、「8番・投手」で好んで起用するのは打撃には定評のある今永で、7試合と最も多い。続いて平良、濱口が4試合、大貫、井納が3試合となっている。
「8番・投手」の狙いは主に3つある。(1)「8番・投手」で走者を得点圏に進め、9番に得点圏打率の高い打者を入れて返す、(2)「8番・投手」で攻撃が終わり、9番から打順が始まることで1番につなぎ、最強打者を置くことが多い2番、或いは、クリーンナップの前で得点圏に走者を置く確率を高める。(3)継投策が多いため終盤の勝負どころで「8番・投手」のチャンスに代打を送りやすい。 またこの戦略で重要な位置付けにある9番には、今季27試合中、大和が最も多い10試合、続いて戸柱が9試合に起用されている。大和の出塁率は.298、戸柱の得点圏打率は.294。データ主義のラミレス監督にとっては、おそらく、このあたりの数字が根拠になっているのかもしれない。10日の阪神戦では9番に戸柱を使ったが、4打数3安打1本塁打と大爆発した。 この日は、前日の復帰戦では6番で使い、いきなり本塁打を打ったオースティンを2番に入れていた。倉本―梶谷と打線をつなぎ、そのオースティンの前に走者を得点圏に進めておきたいとの狙いがあったのだろう。 だが、今季の打順の巡りでは残念なケースが目立ち、この「8番・投手」起用に疑問を投げかける声は少なくない。巨人、楽天、西武などでヘッド、戦略、作戦コーチを務めたことのある野球評論家で、新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ強化アドバイザー兼総合コーチの橋上秀樹氏も、「8番投手の意図や根拠がよくわからない。得点効率を上げるメリットは何もないのではないか」と批判的な意見だ。 「8番・投手で得点効率が上がるという具体的なデータは見たことがない。数字的な根拠のある作戦ではないと思う。8番投手で送って9番で返す、或いは9番から1番へのつなぎが狙いであるとすれば、それは決して得点効率をアップさせる作戦ではない。4回に大貫に一死一、二塁からバントを命じ失敗していたが、そもそもこのケースでのバントは難しい。もし、ここで8番に野手を置いていれば、バントはないし攻撃としての得点効率は高くなる。投手が打席に立たないパ・リーグでは、9番、1番、2番に機動力のある打者を並べるケースは少なくないが、横浜DeNAには、そもそも機動力を使える打者は少ないし、最も打撃に期待のできない打者、すなわち投手を9番に置いた方が、トータルで見れば、9番が最も打数は少ないのだからリスクが減ることになる。それでも、ラミレス監督が、この作戦を使うのは、何か変わったことをしてやろうという考えなのかもしれない。巨人戦では、パットンをショートスターターに起用して失敗したが、ラミレス監督は、常識にとらわれない采配が多いので、その采配を理解することは難解だ」