特別寄稿=言葉は心の顔=日本語学習に奮闘する外国人就労者=サンパウロ在住 毛利律子
オノマトペの効用
日本国にはオノマトペも多い。日常的に頻繁に使われる。方言にオノマトペを混ぜると、標準語よりズバリ言い得ることがある。しかも説得力が倍増する。関西弁などは実に言い得てナットクの言葉が多い。たとえば、「そんな優しい言い方で相手が分かるか、ガーンとやらなあ、ガーンと!」「チカンは、アカン」などは、標準語の「痴漢は犯罪です」より、ずっと迫力があり、覚えやすい。 日本では、医療従事者のための、英語、ベトナム、ポルトガル、中国、韓国、タガログ語などに翻訳された「オノマトペシート」を使って症状を尋ねる。ガクガク、ガンガン、ギシギシ、キリキリ、シクシク、キンキン、ゴリゴリ…と言った表現である。医療現場では、これらの表現でトリアージ(治療優先度)が決まることもあるから、日本語教師も注目すべきであろう。 医療に関するオノマトペ表現などは、日常会話学習の時に習っておくと便利である。
何ちゅうか先生
こちらに来るまで、筆者は岡山周辺の大学で日米比較文化論講座を担当していたが、日本社会は急速な超高齢化社会に向かっており、外国人留学生を受け入れるようになって、2000年ごろから、医療現場で使う医学英語も教えるようになった。 特に東南アジア系は学費を借金して来ているので、まじめに猛勉強する学生が多かった。彼らは、日本人でも難しい医療の言葉を覚えて資格を取らねばならない。授業はいつも活気があり、発想の違う質問が飛んでくるたびに、ドギマギさせられたものである。 看護学校などでは、現役の医師や看護師が教師となることもある。普段、語学を教える機会は少ない先生方である。 ある時、一人の東南アジアの学生が次のような質問をした。 「センセイ、ある先生が日本語の説明の時になんちゅうかーという言葉を繰り返すのですが…その言葉は説明しにくいということですか?」 (オット、こちらも、つい、なんちゅうか、と言いたくなるのを抑えつつ、)「日本語はニュアンス、あいまいな表現を何とか言葉にして相手に正確に伝えようといろいろと模索するときに使うのが、なんちゅうかー、ですかね…」と、あいまいに答えてしまうのである。 すると、学生は物足りない。本格的に勉強に来たのだから、正確に知りたい気持ちで一杯なのである。 「もっとちゃんと説明してよ!」といった顔つきである。
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