感染症の文明史【第3部】地球環境問題と感染拡大 1章 人類が自ら招いた危機:(3)食肉の大量生産システムが生む耐性ウイルス
ヒトからペットへの逆感染も
ヒトにウイルスや細菌を感染させるのは家畜にとどまらない。人類は誕生以来、さまざまな病気を野生動物からうつされてきた。WHOの感染症リストによると、現在知られている感染症1415種類のうち61%が動物由来感染症だ。
病原体を保持する動物(自然宿主)と主な感染症
サル ・エイズ(チンパンジー) ・マラリア(アフリカの大型類人猿) ・黄熱病 ・ヘルペスB コウモリ ・新型コロナ ・SARS ・狂犬病 ・エボラ出血熱 ・ニパウイルス感染症 ・マールブルグ病 ラクダ ・MARS アルマジロ ・ハンセン病 齧歯(げっし)類 ・ペスト ・エムポックス(サル痘) ・ラッサ熱 ・ハンタウイルス感染症 野鳥 ・インフルエンザ(アヒル・カモ) ・西ナイル熱 ・クリプトコッカス症 両生類・爬虫類 ・サルモネラ感染症 ダニ ・ライム病 ウシ ・ハシカ ・結核 ・シフテリア ・炭疽症 ・牛海綿状脳症(BSE) ブタ ・新型(豚)インフルエンザ ・E型肝炎 ・カンピロバクター感染症 ・クリプトスポリジウム症 感染経路としては、動物の唾液、体液、ふん尿などからの「直接感染」、家畜小屋、水槽、土壌などからの「間接感染」、蚊、ノミ、ダニなどの「昆虫媒介」、そして汚染された水からの「水系感染」などが考えられる。 米フロリダ大学「新興病原体研究所」の動物由来感染症の専門家ベンジャミン・アンダーソンは、動物由来感染症だけでなく、ヒトがペットにうつす逆感染、つまり「ヒト由来感染症(人為感染症)」の危険性を指摘する。ヒトがペットとベッドを共にしたり、キスしたり、食事を分け合ったりする親密な関係になることで、ペットが飼い主から病気をうつされる場合がある。 アンダーソンは、「通常はヒトが感染するウイルスは、イヌやネコが持つ受容体(カギ穴)には適合しないので感染しない。しかし、逆感染によってウイルスに突然変異が起きて新しい宿主に適応することはあり得る」という。RNAウイルスであるインフルやコロナのウイルスは、コピーミスや遺伝子再集合によって変異が起こりやすいため、種の壁を越えてペットに病気が感染しやすい。こうした逆感染はペットからヒトや野生動物へと病気を広げる可能性もある。