これで文系でも天才数学者と同じ景色を見ることができる…現代数学の超難問をできる限りやさしく解説する
■「特別な点」がないことも ではここで、有理点にまつわるおもしろい現象を見ていただきましょう。 さっきの円周x²+y²=2上には、有理点が無限個ありました。ところが、半径をちょっと変えた円周x²+y²=3上には、一転して有理点が1つもないことがわかったのです。 方程式だけ見ているとほとんど差はないように感じますが、有理点に注目してみると状況がまったく違いますね。 いったい、どんな円なら有理点があって、どんな円なら有理点がなくなるのでしょうか? もっと一般的に、どんな曲線なら、どれほどたくさんの有理点があるのでしょうか? フェルマーやオイラーなどのそうそうたる数学者たちが、有理点にまつわる不思議な現象に興味をもち、曲線上の有理点の様子を明らかにしていきました。 もしかして「有理点をコツコツ解き明かした数学者たちはきっとすごいんだろうけど、やっぱり有理点の問題って地味でぱっとしないなぁ……」なんて、思っていませんか? なんと、有理点の問題は、実はめちゃくちゃすごいことにつながっているんです! 円周上の有理点について解き明かした数学者たちは、さらに難しい曲線上の有理点の解明に乗り出していきました。そしてBSD予想を生み出す曲線「楕円曲線」に行きつくのです。 ■曲線とBSD予想のつながり いきなりですが、皆さんは楕円曲線を見たことがありますか? いくつか描いてみましょう。楕円曲線とは、こんな感じのぐにゃりと曲がった曲線です。 この楕円曲線上の有理点の問題はとてつもなく奥の深いものでした。この難問へのチャレンジが、今回のテーマ「BSD予想」を生み出します! では、楕円曲線上の有理点を考えてみましょう。まずはこの楕円曲線から。 ---------- 問題1 楕円曲線y²=x³+1上の有理点の個数は? ---------- まず、グラフをじっと見ると、(-1,0)と(0,±1)の3個、有理点がありますね。 では、この3点で全部かというと、実はそうではありません。 2個の有理点(-1,0)と(0,1)を通る直線と楕円曲線との交点(2,3)も有理点。同じように(2,-3)も有理点で、これで5個です。 実は、この5個以外には有理点がないことが証明できるので、y²=x³+1の有理点は (-1,0)、(0,±1)、(2,±3) の5個だけと決定できました。