これで文系でも天才数学者と同じ景色を見ることができる…現代数学の超難問をできる限りやさしく解説する
■図形上にある「特別な点」を探す旅 BSD予想と比べたらとても簡単な問題を何問か考えてみましょう。 ---------- 問題 方程式x²+y²=2で表される円周上には、座標の値がともに整数である点はいくつあるか。 ---------- 2つの座標の値がともに整数である点を「整点」と呼びます。方程式x²+y²=2が表す円周の図をよく見てみると、どうも (x,y)=(1,1)、(-1,1)、(-1,-1)、(1,-1) の4個の整点がありそうです。 実際に計算してみると、 ・1²+1²=2……OK! ・(-1)²+1²=2……OK! ・(-1)²+(-1)²=2……OK! ・1²+(-1)²=2……OK! となり、この4点は円x²+y²=2の上にあります。 そして、x²+y²=2を満たす整数の組(x,y)は、この4つしかないこともわかります。 では、次の問題はどうでしょうか? ---------- 問題 方程式x²+y²=2で表される円周上には、座標の値がともに有理数である点はいくつあるか。 ---------- 問題文は、先のものとよく似ていますね。ただ一カ所だけ、「座標がともに整数」のところが「座標がともに有理数」に変わっています。整点と同じように、2つの座標の値がともに有理数である点を「有理点」と呼びます。この問題は、どう考えたらいいでしょうか? まず、整点A(1,1)は有理点の1つです。実は、この点を通り、傾きが有理数である直線Lを考えると、この直線Lと円周x²+y²=2の交点は必ず有理点になります。さらに、傾きが有理数である直線は無限個あることがわかっていますので、グラフ上の座標が有理数になる点もまた無限個ある、というわけなんです。 ある図形の上にある有理点を(すべて)見つけよ、という問題は「有理点を求める問題」と呼ばれています。 ■古代ギリシャ時代から天才たちが夢中になった ……なんだか退屈そうな問題だな、って? 確かに、そう見えるかもしれません。 でも実は、この「有理点を求める問題」は、古代ギリシャの時代に誕生して以降、いろいろな方程式の整数解に挑んだフェルマーや、「笑わない数学」の常連中の常連であるオイラーやガウスなど、数々の天才たちが夢中になって取り組んだ、数学における一大テーマなんです! 数学史に詳しいマーカス・デュ・ソートイ博士は、有理点を求める問題の重要性をこう語ります。 「私たち数学者は、現在に至るまで2000年もの間、有理点を求める問題に夢中になってきました。有理点の問題は、決して何かの役に立つわけではないものの、数学の新しいアイデアをもたらす源となってきたのです。」 みなさん、グラフ上の有理点を求めるという、なんだか退屈にも見える問題が意外に大事なのかもということ、なんとなく感じていただけましたか?