「移民を排除する」トランプと、彼を支持した「MAGA」主義者の正体…崩れゆく「アメリカの前提」とこれからの30年間に「世界で起きること」
独裁者とのディールで、世界秩序の崩壊へ
――トランプは、どんな外交をすると考えられますか。 怖いのは、アメリカの前提が崩れると世界も壊れてしまうということです。学級崩壊が世界に波及するのです。 そしてトランプは、民主国家アメリカの大統領なのに、独裁者になりたがっています。独裁者は、独裁者にシンパシーがある。トランプには、プーチン、習近平、金正恩のことが魅力的に映るのです。 従来のアメリカであれば、3人ともとんでもない相手なので封じ込めなければいけない。トランプは違います。その証拠に彼は「ディール(取引き)だ」と言っている。 独裁者同士で取り引きすれば、面倒で長たらしい交渉なんかしなくていい。そしてディールの特徴は、相手からも取るけれど、こちらからも与えるということです。これが何を意味しているか、想像できるでしょう。 たとえば、ウクライナの領土のうちロシアが占領している地域を、ロシアにあげましょうかという交渉になる。「武力で現状変更をしてはいけない」という、戦後の国際秩序の大原則を、捻じ曲げてしまうのです。 中国とディールすればどうなるか。習近平が欲しいのは台湾です。台湾はもうアメリカは守らない。だから、中国にくれてあげようと台湾有事が現実のものとなるかもしれない。その代わり、中国のEVはイーロン・マスクのテスラが吸収合併して、世界中に売りまくるという話になるかもしれない。 もちろん、そんなことが本当に起こるとは限りません。でも、そうなっても不思議でないのが、独裁者と独裁者の「ディール」なのです。 それが、どんな結果を生むのか。力による現状変更を認めてしまえば、各地で紛争が絶えない何でもありの世界になるでしょう。 北朝鮮も武力による現状変更を狙っています。ロシアに1万人の兵隊を送って「貸し」を作っているのは、手に入れたいものがあるから。石油、軍事技術、外交的サポート。そして何より、北朝鮮が戦争行動をとった場合に好意的な中立をしてもらう、あるいは積極的に後押しをしてもらうことを期待しているのです。 よく考えてほしいのだが、独裁者がトップに居すわる権威主義国家は、国内の大勢の人びとを圧迫して成り立っている体制なのです。心ある人びとが涙を流し血を流し、自由を奪われ死んだり苦しんだりひどい目にあっている。そんな独裁者とディールしたら、それを認めることになってしまうのです。 トランプがこれからやりかねないこうしたディールは、これまでの国際社会の前提を揺るがしてしまうことになるでしょう。