「移民を排除する」トランプと、彼を支持した「MAGA」主義者の正体…崩れゆく「アメリカの前提」とこれからの30年間に「世界で起きること」
アメリカに「カトリック」が増えた意味
――「現代の独裁者」についてもお聞かせいただけますか? 日本人はあまりピンと来ていないのですが、欧州文明は何人も独裁者を生み出してきた。イングランドでは、クロムウェルが出ました。彼は清教徒(ピューリタン)で、宗教的な背景をもった独裁者です。フランスからはナポレオンが出ました。彼は世俗のフランス共和国から出てきた皇帝で、フランス中心主義で、「欧州はみんなフランスの価値観に従え」と、征服戦争に明け暮れた。 ヒットラーは、ドイツから出てきました。彼はドイツ中心主義で、偉大なドイツが「欧州を仕切る」と言った。また、「ユダヤ人はいなくていい」「ロシアも劣等民族だ」と言ってソ連と戦争をした。ロシアからはスターリンが出て、いまはプーチンがいます。イタリアではムッソリーニが、スペインからはフランコが出た。 このように欧州の国々からは独裁者が出て、彼らはすべて民衆の支持をうけました。 その例外がアメリカでした。 アメリカは民主主義の国だから、独裁者は出てこないことになっていた。なぜ、アメリカに独裁者が出ないかというと、イギリスの植民地だった時代が長かったからです。 イギリスの植民地では、どこもイングランド国王が威張っていました。国王はアメリカのことなんかどうでもいいから、アメリカ人を踏みつけにしていたわけです。そこに、クロムウェルの革命が起きてピューリタンが共和国を作りますが、その政権が終わると王政復古になりピューリタンには逆風となった。 本国の政情に植民地は翻弄されて、いつも苦労していました。だから、アメリカは欧州と距離をとって独自にやっていく道を選んだ。自分たちの信仰を守るために、州(ステイツ)を作り、それがまとまってやっていきたいと思ったのです。 ――こうしてイギリスとの独立戦争を戦って民主国家となって行くわけですね。 そこで重要なのが、アメリカのもうひとつの特徴なのですが、教会がいっぱいあるということです。 ピューリタンもたくさんいました。でもペンシルバニア州にはクエーカーがいた。メリーランド州にはカトリックがいた。ヴァージニア州ではイングランド国教会が強かった。ニューヨーク州は改革派で、ロードアイランド州にはバプテストがいて、という具合に、アメリカのキリスト教はほぼプロテスタントですが、バラバラだったのです。 イギリスに対抗する必要上、州(ステイツ)が束になって独立戦争をしなければならないので、指揮官を大統領にしてユナイテッド・ステイツという同盟を組んで戦った。そして独立した。そのときに、特定の教会や宗派を選べないから、合衆国は世俗の国家にすると決めた。トップを大統領にして、議会をつくり、裁判所もあるが、全部、世俗の組織。その職員はできるだけ、選挙で選んで任期をもうけ、交代させる仕組みを作った。 独裁者が出ないようにするためです。 このように、王でもなく独裁者でもない統治の仕組みを世界で最初に作り上げたのがアメリカでした。これを支えていたのはプロテスタント、特にピューリタンの伝統でした。ですから、ピューリタンがアメリカの政治の仕組みの原点です。 さて、ピューリタンは宗派の名前で言うと、コングリゲーショナル(会衆派)です。当初は主要な宗派だったが、そのうちほかの宗派のほうが大きくなって、いまでは少数派です。 アメリカでは100年くらい前から、バプテストやメソジストの信徒が多くなってきましたが、現在、もっとも多くなっているのが意外な宗派です。 実は近年、カトリックの人口がどんどん増えているのです。