2t超のガラガラヘビが犠牲に、あまりにむごい「ヘビ狩りイベント」はなぜなくならないのか
ヘビを蹴飛ばし反撃するまで挑発、その場でフライにされるヘビも、米国で毎年開催
1万人が暮らす米国テキサス州のスイートウォーターでは、1958年以来、ガラガラヘビを狩るイベントが毎年開かれている。スイートウォーター青年会議所が主催するイベントには毎年、数万人の観光客が訪れ、平均で2.6トンもの生きたガラガラヘビが集められる。 ギャラリー:あまりにむごい「ヘビ狩りイベント」ほか 写真5点 害獣と見なされる生き物を根絶することが、当初の目的だった。ほかにも全米12カ所でヘビ狩りが行われているが、どれも同じだろう。 だが、現在の目的は明らかに金銭だ。イベントでは、ハンターから買い上げられたヘビの大半は、会場内の調理小屋でビール入りの揚げ衣を付けてフライにされ、残りは財布やブーツ、バッグや装飾品の製造販売業者に売却される。 3日間のイベントは、地元の慈善活動の資金をもたらす。2023年の実績は6万3000ドル(約950万円)だった。また、観光により、毎年800万ドル(約12億円)以上の経済効果が生まれている。 イベントの教育コーナーでは、デビッド・セイガーが、数十匹のヘビの間を歩き回りながら豆知識を披露している。ニシダイヤガラガラヘビは、「不快」で「危険」、そして「醜い」という。ヘビ狩りを正当化するための表現だ。 彼は捕獲棒でヘビを突いてとぐろを巻かせ、頭をピンで留め、写真撮影のために持ち上げた。さらに、ヘビを床に落として蹴飛ばし、反撃してくるまで風船を使って挑発する。「パン!」と風船が破裂すると、子どもからお年寄りまでが息をのんだ。 青年会議所のスタッフは、生きたヘビを木のブロックに固定し、鉈(なた)で頭部を切り落とすと、まだ動いている胴体を棒につるした。胆のうを取り出すこともある。中国伝統医学で需要があり、一つ数ドルになることがあるのだ。その後、20ドル(約3000円)の料金を払った観客がヘビの皮をはぎ、血を手のひらに塗って、壁に赤い手形を付ける。幼い子どもまでが参加していた。 ニシダイヤガラガラヘビは、脅威を感じたときは退却し、相手に警告を与えるためにシューッという噴気音やジーッという尾の振動音を発する。敵を攻撃するのは、それが最後の選択肢であるときだけだ。かみついた場合も25%の割合で毒を出さないので、人間にとっては比較的避けやすい生き物だ。 イベントが教育のためというのなら、そうしたことを一般の人々に教えるべきだ。なぜ恐怖心をあおり立て、大量虐殺を続けるのだろうか。 米疾病対策センター(CDC)によると、有毒なヘビやトカゲにかまれて命を落とす人は、全米で年間平均5人だという。テキサス州の中西部に数多くいる家畜が、ヘビ狩りのおかげで守られているという主張もある。だがこの土地で55年間、獣医師をしてきたバド・オルドレッジ・ジュニアは、ガラガラヘビが牛をかんだ例はほとんどなく、その傷が命取りになる可能性は低いと話す。 では、なぜヘビ狩りがなくならないのか。お金ももちろんだが、ヘビ狩りは、自己の男らしさを証明し、地元の風土と一体化しながら、カウボーイの武勇伝に見られる興奮と冒険を追体験し続ける方法だと、米モアヘッド州立大学の哲学教授であるジャック・ウィアは学術誌で述べている。1992年の研究だが、今も通じるのではないだろうか。 ナショナル ジオグラフィック日本版12月号特集「愛され、嫌われるガラガラヘビ」より抜粋。
文=エリザベス・ロイト