「移民を排除する」トランプと、彼を支持した「MAGA」主義者の正体…崩れゆく「アメリカの前提」とこれからの30年間に「世界で起きること」
「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」の背景
――イギリス国教会という権威に対抗してアメリカの基礎を作ったのがプロテスタントでした。カトリックと言えば、権威主義的な宗派で知られています。そのために、アメリカの前提が崩れてきているのですね。 その通りです。いまではカトリックは、アメリカ人全体の20%あまり(7000万人)を占めているといいます。彼らの多くは、アイルランド、イタリア、スペイン、ポーランド、そして中南米からの移民です。とくに中南米は、ほぼカトリックで、最近の数十年間でアメリカにどんどん入ってきて、大きなグループになりました。 しかも中南米のヒスパニックの人びとは、英語を話さないでスペイン語しか話さなかったりする。これまでのアメリカと、ちょっと違った雰囲気になっています。 カトリックの政治文化を見れば、プロテスタントとは全く違うことが分かります。 カトリックは「長いものに巻かれろ」の事大主義であり大家族主義的です。権威に抵抗し、権威からの自由の獲得を求めてきた伝統的なアメリカ人と行動様式が違う。そういう人びとが一人一票をもっているのですから、100年前の大統領選挙とまるで違った結果が出たとしても不思議ではないのです。 ――ピューリタンはいま、どうなっているのですか? 角がとれて丸くなった。いまはリベラルなキリスト教になったり、キリスト教を飛び出してただのリベラルになったりしています。こういったリベラルな人びとが支持するのが民主党です。しかし、アメリカではピューリタンの流れをくむリベラル派は少数派になりつつある。 それに対して、トランプの共和党のメンタリティは、エバンジェリカルズ(福音派)。それに、カトリックも加わった。たとえば中絶に関しては、どちらも中絶を認めない頑固な保守派で、トランプ・サポーターになっている。「福音派+カトリック」連合でアメリカのキリスト教多数派を構成して、彼らの支持を受ければ大統領になれてしまうのです。 アメリカは自由の国でした。国内では多様性を認め、調和して生きていこう。世界にはいろいろな国があるけれど、アメリカには豊かさと強い軍隊があり、責任があるから、世界に関与しつづけよう。そのコストはアメリカが払いますよ。これがNATOや日米安保条約をはじめ、軍事同盟で世界のバランスに責任を持つアメリカの過去70年の態度でした。 ところが中国やインドが台頭して、アメリカの立場が相対的に弱くなった。すると、「世界のことを言っている場合か」「いったい彼らはアメリカに何をしてくれたのだ」という言い方が、その日暮らしで苦労している庶民の人びとに響くようになった。だから「アメリカファースト」です。そして、アメリカファーストをやりさえすれば、「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」は実現するというわけです。 従来、民主党に投票していた人びとも一部、この主張をもっともだと思った。ヒスパニックや黒人が「白人化」したと言われています。