上場しなくてもいい。地域VCが描く新しいビジネスモデルとは?
スタートアップとアトツギベンチャーが交差し、旗を立てる挑戦者を瀬戸内から応援する新たな経済番組「Setouchi Startup Flag」(通称・セトフラ)。 瀬戸内エリア内外の起業家やアトツギをゲストに招き、瀬戸内・中四国特化型ベンチャーキャピタル「Setouchi Startups」の共同代表、藤田圭一郎と山田邦明がVC目線でゲストのビジネスストーリーを深掘りします。 今回は、京都の独立系VCフューチャーベンチャーキャピタル時代に総額240億円のファンドを設立するだけでなく、ベンチャーキャピタルの新たなビジネスモデルを実現してきたABAKAM代表の松本直人さんをゲストにお迎えした回をご紹介。 多くの投資先の中の一部が上場することでリターンを回収する一般的なベンチャーキャピタルのビジネスモデルに限界を感じ、リターンだけではない出資者が求めるニーズを叶えるファンドを作ってきた松本さん。新たな形を広めていった過去だけではなく、前職での社長解任の背景や、次なるエクイティのあり方についてもお届けします。 ■リターンだけではない、ベンチャーキャピタルに求められるニーズ 松本:神戸から来ました、よろしくお願いします。 大学卒業後、新卒でフューチャーベンチャーキャピタルに入社しました。2016年に社長に就任し、2022年6月にクビになりまして……。今は20社程のベンチャーキャピタルや上場会社、その他企業や団体の社外役員、顧問を務めています。 フューチャーベンチャーキャピタルでは、東日本大震災を機にベンチャーキャピタルのビジネスモデルを大きく変えました。「東日本大震災で職を失った方々が新たに起業するときに、融資ではなくエクイティで投資する仕組みを作りたい」と岩手の盛岡信用金庫から相談を受けたんです。上場しなくても投資を回収できるモデルを作れば良いと考え、実際に作ってみるとすごく上手くいきました。 藤田:上手くいくとは、どんな状態でしょうか? 松本:ちゃんと育って、回収できる状態です。投資した会社が上場しなくても、その地域を代表するような会社になりました。それを横展開していき、北は秋田から西は大分まで地域の金融機関と連携して地方創生ファンドを作ってきました。 また、もう一つビジネスモデルを変えてきました。20年間ベンチャーキャピタルをやっている中で、投資は実はリターンの再現性がそれほどないことに気がついたんです。ホームランを打つスキルセットがないので、次のキャピタリストも育てられない。そうすると、なかなか上場企業としてサステナブルなビジネスモデルになりにくいんです。 ただ、ファンドにお金を出す方々のニーズは、お金を増やしてほしいということだけではありません。金融機関であればその地域を良くしたいと思っていたり、大企業だとスタートアップと連携して新しい事業を作りたいと思っていたり。それは、ファンドでリターンを出すことと繋がってはいるものの、リターンを出せば達成できることではないんです。 そうしたお金ではないニーズを満たすためのファンドを作ろうと、VaaS(VC as a Sarvice)というビジネスモデルを作りました。社長に就任した時から退任までの間の6年半で、約50本のファンドを作っています。 山田:リターンの再現性は難しいけれど、それであれば再現可能だと考えたわけですね。