変わらぬことで生き延びた?進化の奥深さムカシトカゲ「生きた化石」(下)
あいまいな「生きた化石」の定義
「生きた化石」の代表(の一つ)として有名なムカシトカゲ「スフェノドン」。この爬虫類をもとに生きた化石の定義について、改めてまとめてみたい。 1.太古における大繁栄:ジュラ紀の化石記録においてたくさんの種が見られた。 2.初期形態の所持:2億年以上たってもあまり変わらぬ形態をいくつかいまだに持ち合わせている。 3.進化における情報源:古生代後半から中生代前半に起きた、初期爬虫類の進化パターンを探る上で恰好の情報を与えてくれる。 4.現生種の存在:現在も生きているが、非常に限られた地理的分布を示している。非常に限られた数の種が生き残っているだけだ。 1-3の事実は生きた化石の定義として、他の例にも共通して見られるようだ。第4の点は、サメやゴキブリなど世界中に現在分布しているものにはあてはまらない。しかし、現在2種だけが太平洋も非常に限られた深海だけに生息しているシーラカンスはこの例に含まれる。 こうして改めて「生きた化石」の特徴を考えてみると、その定義がかなりあいまいなのが分かる。例えば「古い形態」といっても、どれくらいの年代ならいいのか? 現在生息している野生のインド象を、わずか数千年前に生きていたマンモスと比較して生きた化石と呼ぶことは可能だろうか? そして初期の(いわゆる原始的な)形態を「いくつ」備えていれば、生きた化石の仲間入りが出来るのだろうか? 例えば、我々の細胞はプロテイン(アミノ酸)を基にした構造をもち、DNAなど核酸をベースにした遺伝子を備えている。これは生物史の最初期に現れたバクテリア系の生物にも共通して見られる特徴だ。この点だけをみてヒトを生きた化石と呼ぶことはできないろうか? (こう呼ばれることに抵抗を感じる人がいるかもしれない。) 最古の生物記録の記事で紹介した「ストロマトライト 」は、生きた化石の例として取り上げていいだろう。しかし化石記録において、実際の(シアノ)バクテリア細胞の化石標本は、先カンブリア代 (約40億年から5.45億年前)の地層に保存されていることはまずない。化石として残るのは、バクテリアによって建築された「堆積による構造物」だけだ。 はたして現在見られるストロマトライト(を作るバクテリア種)と何十億年も前のグループに、直接、進化上のつながりはあるのだろうか? 進化上もし現生種が独自にこの構造物をつくる能力を手に入れたとしたら、「生きた化石」のタイトルを与えることは難しいかもしれない。 詳細な進化の道筋を知ることは、生きた化石を正しく認識するための、必要最低限のプロセスといえるだろう。フィギュアスケートや新体操の採点を行うには、それぞれの技の難易度などの知識(そしてしっかりした理解)が必要不可欠なように。 ダーウィンによって150年以上前に提唱された、この生きた化石というアイデア。しかし(その定義は)なかなか「正体がはっきりしないもの」と、特に一部の生物学者や進化学者達から考えられている。そのためスフェノドンは「何となくむかしの感じを漂わせたトカゲのような爬虫類」と呼ばれかねない。 はたしてスフェノドンの「生きた化石」としての権利を守るため、我々は具体的にどのようなことができるだろうか? ダーウィンによってはじめて提唱された、化石記録をもとにした進化学上のこのアイデアを、古生物学者はどのように継承、そして発展させられるのだろうか?