優遇しているようで実は差別的 ―― 根強い専業主婦志向を生む「年収の壁」の矛盾 #昭和98年
ただここにきて、年金制度の第3号被保険者については見直しの兆しが出てきている。昨年10月、日本経済団体連合会(経団連)は第3号被保険者制度の見直しを含めた提言「中長期視点での全世代型社会保障の議論を求める」を公表。また、武見敬三厚生労働大臣も昨年10月、閣議後の記者会見で第3号被保険者の見直しについて「よく見極めながら判断したい」と検討を進める考えを示した。 橘さんはこうした動きに賛意を示しつつも、専業主婦の問題というより、前提として民主的でリベラルな社会とはどういうものかという議論が欠けていると懸念する。 「近代社会は自由な市民によって構成されるのが原則です。それにもかかわらず、税や社会保険、年金といった制度がなぜイエ単位なのか。これが日本社会の根幹にある問題ですが、それに向き合おうとしないのは、「日系日本人、男性、中高年、高学歴、正社員」というマジョリティが身分制から利益を得ているからで、こうした男と結婚した専業主婦も既得権も享受している。日本のリベラルの最大の汚点は、自分自身が差別に加担していることを認められなかったことで、それが経済の低迷や社会の閉塞感の大きな原因になっているのだと思います」
---------- 荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『生き物がいるかもしれない星の図鑑』『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』など。 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。2023年、「安倍元首相暗殺と統一教会」で第84回文藝春秋読者賞受賞。