DMO(観光地域づくり法人)乱立の果てに…地方観光の救世主はなぜ機能しない?
先駆的DMOに選ばれた白馬
「世界的なDMO」の形成を目指してスタートした先駆的DMOは、(1)観光による受益が広く地域にいきわたり、地域全体の活性化を図っていること、(2)誘客/観光消費戦略が持続的に策定される組織体であることを軸に選定される。 日本で4例目の先駆的DMOに選ばれた白馬村は、日本屈指のスキーリゾートだが、スキー人口の減少により、来場者が1990年代から2015年頃までほぼ右肩下がりに減少していた。 白馬村が目指したのは「雪に頼らないオールシーズンマウンテンリゾート」である。まず着手したのは夏季の観光コンテンツ充実。長野県で1番の透明度を誇る青木湖でのクリアカヤック(透明な素材なので湖の透明度を実感できる)体験、“アルプスの少女ハイジ”になれる「白馬ジャイアントスイング」、リフトに乗って絶景を眺めながら朝食を満喫できる日本初の空中レストラン「Breakfast in the sky」など、新機軸を次々と打ち出した。 冬季についてはインバウンド誘客に本腰を入れた。コロナ禍においても主要市場である豪州に積極的に情報発信し、水際対策が緩和された後は、豪州の旅行博で白馬の魅力をアピールした。 地方の弱点である2次交通の充実にも力を入れ、バスタ新宿から白馬エリアへの高速バスを運行するなど、アクセス向上を図っている。また、長期滞在するインバウンドが飽きないように、善光寺や松本城など、長野県内の他の観光地に白馬村から直通バスを運行している。 白馬村のインバウンド延べ宿泊者数は2006年の3.3万人から2023年には25.2万人に急増した。そのうち豪州客が約4割を占め、最も多い。
白馬はなぜ成功?DMOが真の観光司令塔になるには
お世辞にもアクセスが良いとは言えないのにインバウンド誘客に成功し、大復活を遂げた白馬村はDMOの鑑とも言えるが、なぜ多くのDMOが掛け声倒れに終わっているのに白馬村は成功したのだろうか。 日本のDMOの弱点はビジョンの不在、人材不足、補助金頼みで財源が安定しないことといわれる。白馬村は2016年時点で「白馬村観光地経営計画」を作成し、目標像「恵まれた自然、山と雪が育む生活・文化を未来に残すマウンテンリゾート・Hakuba」を掲げて、実現するための手段や関係者の役割分担を整理・実行した。 背後にいるのがホテル業界出身であり、観光のプロである白馬村観光局事務局長である。日本でもプロが仕切って目標が明確なDMOは成果を上げている。白馬村は補助金以外の確かな財源を確保すべく、宿泊税の一種である白馬村観光振興税(仮称)の導入も目指している。 インバウンドが特定観光地に殺到し、地方で閑古鳥が鳴いている今の状況は健全とは言えない。日本のDMOは「観光地域づくりの司令塔」へ向けて仕切り直しが求められているが、白馬村の事例は成功へのヒントを与えてくれる。
執筆:東レ経営研究所 チーフアナリスト 永井 知美