DMO(観光地域づくり法人)乱立の果てに…地方観光の救世主はなぜ機能しない?
300超も林立する観光地域づくり法人(DMO)
DMOは、2015年、スイスのツェルマット、米カリフォルニア州のナパバレーなど、海外の成功したDMOをお手本に登録が始まった。目指すは「観光地域づくりの司令塔」である。 それ以前にも日本には観光協会があったが、インバウンドを地方に誘客するには力不足ということでDMOが構想された。DMOが中核となって観光データの収集・分析、観光地域づくりの戦略の立案、関係者との合意形成を進め、どういう層をターゲットにするかなどの戦略を策定し、観光コンテンツを造成し、受け入れ環境を整備して誘客を図る。インバウンド誘客で地方に賑(にぎ)わいを取り戻し、旅行消費で地方を活性化するというのが当初のもくろみだった。 前述のとおり、DMOの数は増えたが、インバウンド誘致にはあまり貢献していない。 インバウンドが急増したのはDMOの功績というより、日本の旅行先としての見どころの多さや食事のレベルの高さ、治安の良さなどに加えて円安、海外主要国に比べるとそれほど物価が上がっていないことでお得感が高まったためである。DMOが高い能力を発揮していれば、今頃、インバウンドは地方に分散して、オーバーツーリズムもいくらか緩和されているはずである。 2015年に登録申請受付が開始されたDMOは右肩上がりで増加し、候補DMOも含めて、347にものぼっている(図表3)。2021 年時点での世界のDMO数は約2400。日本のDMO数の多さは突出している。しかも、目立って成果を挙げているのは熊野古道を核とする和歌山県の田辺市熊野ツーリズムビューロー、長野県の白馬村観光局など一部DMOにとどまっている。
DMOの問題点~いまだ目標も定まらず
なぜこんなことになったのか。 日本版DMOは、(1)多様な関係者の合意形成ができること、(2)プロモーションを実施することなど、何点かの要件をクリアしなければ登録できないが、明確な目標をもって手を挙げた法人は少数派で、多くは国や観光庁が作れと言っているから、首長に作れと言われたからなどの理由で、行政主導で誕生した。補助金が出そうだ、よその自治体も作っているとわれもわれもとDMOを組成してしまったので、あまたの組織が乱立している。 上から言われて作った組織が多いので、当事者意識が薄く、これをしたいという明確な目標もない。上位管理職の多くが観光のプロとは言い難い行政や民間企業からの出向者で構成され、しかも数年でいなくなるDMOや、データを分析して戦略は作るが問題解決に至らず、また新たな戦略を作っているDMOなど、人材不足のDMO、迷走しているDMOが少なくない。 実際、富裕層誘致を掲げてみたものの、富裕層向け宿泊施設がありませんでしたで終わった例もある。 インバウンド誘致の関連組織が多く、それぞれの役割分担が明確でないという問題もある。観光庁、日本政府観光局(JNTO)、DMOと3つの階層があり、DMOも広域連携DMO(北海道など地方ブロックレベルのDMO)、地域連携DMO(複数の自治体にまたがるDMO)、地域DMO(単独市町村のDMO)に分かれている。 どの組織が何をするのかという役割分担もそれぞれの目標もいまだ曖昧である。情報共有も進んでいないので、同じ県内で県とDMOがインバウンドを奪い合うという珍事も起きた。 ただ、観光庁もコロナ前から問題は認識しており、2020年にDMOの登録要件を厳格化した。登録の3年ごとの更新と登録取り消し規定も設け、41件(候補法人含む)のDMOの登録を取り消している。 2023年には、世界水準の持続可能な観光地域づくりを目指す「先駆的DMO」の制度を開始した。田辺市熊野ツーリズムビューロー、京都市観光協会、岐阜県の下呂温泉観光協会の3法人に加えて、2024年、長野県白馬村観光局が新たに選定されている。