「世界で最も美しい美術館」に“紙の家”ヴィラ宿泊 坂茂氏が提案する究極の建築美体験【世界文化賞】
景色を取り込むミラーガラス
美術館の外側は全体がミラーガラス・スクリーンになっていて、ピンクや黄色の展示室はもちろん、瀬戸内海と対岸の島もがくっきりと映し出されている。坂さんはその狙いをこう説明している。「ミラーガラスの反射でランドスケープが倍増する効果を作り出しました」。 お客さんの姿も、テラスの白いチェアも、みんなガラスに溶け込んで、これが建物だということすら忘れてしまう。
床に映る光のシルエットすらアート
この美術館のコンセプトは「アートの中でアートを観る」。実際、どこにいてもアートを体感できるが、筆者が注目したのは、エントランス棟の床にくっきりと映し出された光のシルエット。この光線の差し込み具合、反射具合も坂さんが計算し尽くしたに違いなく、自然光と木のハーモニーに癒やされる空間になっている。 こうして、日中にさまざまな美しさを堪能できるのだが、夜になると想像を超えた世界が待っていた。
見たことのない“夜景アート”
美術館全体がライトアップされて、海側から見ると、8つのカラーボックスは蛍光色のように色とりどりに輝いている。そして、エントランス棟の木のような柱はやさしいベージュの灯りに浮き彫りになり、バックの山並みと相まって、見たことのないアーティスティックな絶景が広がる。 美術館の展望エリアから見ると、蛍光色が水面に反射し、遠くに見える工場地帯の灯りまでもがアートに見えるから不思議だ。 昼も夜も美術館を眺めているだけで実に豊かな時間が過ごせるのだかが、何とここでは坂さんのデザインしたヴィラに宿泊することもできる。
坂茂さん作品のヴィラに泊まる!
この美術館は当初広島市内に建設する予定だったが、海岸に沿って南北に350メートルほど続くこの広い敷地に変更になったという経緯がある。工場が多い地域で他に名所もなく、どう人を集客するのか、というハードルが立ちはだかったときに、坂さんが「美術館に加えて、美しい海の景観を活かしたオーベルジュを作りませんか?」と提案したのだ。 こうして美術館、ヴィラ、レストランからなる複合施設SIMOSEが誕生した。宿泊施設の“Simose Art Garden Villa”には、ヴィラは10軒。坂さんは「10軒のヴィラは連泊や再訪の楽しみづくりとして、デザインをすべて変えました。そのうち4軒は自分が初期に設計したヴィラの代表作であるダブルルーフの家、家具の家、紙の家、壁のない家を再現しました」と語っている。 私たちは、坂さんの代名詞である紙筒(しかん)を使った「紙の家」を見せてもらった。 「紙の家」は1995年に坂さんが山中湖に作った紙管が主構造の別荘。ホテル仕様になったこちらの部屋には110本の紙管がS字状に並べられていて、家具もおしゃれ!紙管の質感に癒やされる。 外を眺めると、そこには瀬戸内海と島が見え、まさに別荘気分で優雅なひとときが過ごせる。SNSで情報を見た外国人がグループで訪れることも多いそうで、リピートして毎回違うヴィラに泊まるのもよし、仲間と一緒に来て、お互いのヴィラを行き来するもよし、とのこと。 坂さんが設計したホテルや美術館は海外に行かずとも、日本各地にあるので、みなさんも建築とアートを堪能する旅を体験してみてはいかがだろうか? 「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」の授賞式は11月19日、東京都内で開催される。 サムネイル 『下瀬美術館』2023年 平井広行撮影 Courtesy of Shigeru Ban Architects
勝川英子