「北アルプス国際芸術祭2024」11月4日まで開催中 10月12日からは「マームとジプシー」の野外公演「equal」の上演も
■東山エリア
大町の市街地の東側、豊かな里山が広がり、この地に暮らす人々の日々の営みを体感することができる東山エリア。身近な自然や気候に思いを寄せ、主に保存や記録が可能なガラスを使った作品を制作している佐々木類は、かつて麻の産地として栄えた美麻地区にある1698年築の茅葺き屋根の民家「旧中村家住宅」で、麻を使ったインスタレーションを展開。上質な麻を使ったカーテンをくぐった先にある厩では、かつて麻畑だった場所で採取した植物を焼成しガラスのなかに閉じ込めた、美しいタイムカプセルのような作品を設置。この土地の記憶を掘り起こし、そして留めることを試みている。 韓国出身のアーティスト、ソ・ミンジョンは、美麻・二重地区にある屋内ゲートボール場で木を使った巨大なインスタレーションを展開。真っ白な発砲スチロールの雪原に、炭化した黒い巨木が倒れ生々しい跡をのこしているかのような光景は、地球温暖化や山火事の脅威のメタファーであり、自然と人間との関係を改めて問いかけている。 かつて大町をおさめていた仁科氏によって祀られた仁科神明宮。日本最古の神明造様式の建物として、本殿、中門などが国宝にも指定されている神社に隣接する森を進んでいくと、木々の隙間から2点の巨大なモノクロームの絵画作品が現れる。こちらは、イギリスのアーティスト、イアン・ケアによる《相阿弥プロジェクト モノクロームー大町》と題した作品。水墨画を想起させる高さ20メートルもの巨大な絵画が風にたなびき、森の木々や差し込む光とともに荘厳な光景を創り出している。 かつて大町市と八坂村をつなぐ最重要ルートとして開削された旧相川トンネル。南アフリカのアーティスト、ルデル・モーは、今は使われていない古いトンネルのなかに2体の魚のような形をしたレリーフを設置した。廃墟となったトンネル内を浮遊しているかのような2体の魚はこの土地の土や竹で作られており、自然にさらされ、やがて土へと還っていく。「非永続性」をテーマに作品を制作しているモーが、トンネル内に創り出した夢と現実の狭間のような空間だ。 地域の人々が集う八坂公民館を、竹を編み込んだ造形でぐるりと一周囲うというダイナミックなインスタレーションを展開しているのは、台湾のアーティスト、ヨウ・ウェンフー〈游文富〉。竹が波をうっているようなデコボコとした囲いの形状は「風のかたち」を表しており、目には見えない「風」がそこに吹き抜けていることを可視化している。取材時は公民館の手前にある田んぼの稲が風で倒されており、その風景も含めて北アルプスを吹き抜ける風の存在を視覚的に感じさせていた。 北アルプスを一望する高台にある大町公園では、船川翔司が《AWHOB-O – ある天気と此性の観察局 – 大町-》と題した作品を設置。北アルプス上空の気象データを取り込み、それに呼応してLEDが光るなど作品に変化がもたらされる。会期中は不定期で作家によるパフォーマンス等も行われる。