「北アルプス国際芸術祭2024」11月4日まで開催中 10月12日からは「マームとジプシー」の野外公演「equal」の上演も
■仁科三湖エリア
青木湖、中綱湖、木崎湖と趣の異なる3つの湖を擁する仁科三湖エリア。カナダのアーティスト・ユニット、ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットが青木湖畔にたたずむ仁科神社の森のなかで展開しているのは、14000個もの不要となったメガネの度付きレンズを使ったインスタレーション。レインシャワーのようにも見える作品は、森に差し込む光を反射してキラキラと輝き、さらにひとつひとつ度数の異なるレンズのなかに周囲の景色を多角的に取り込む。作品の中央には円形のベンチが設置され、無数のレンズによって変化する湖畔の景観を楽しむことができる。 中綱湖の湖畔に位置し、芸術祭ではカフェ&レストランとして使用されている「ふるさと創造館ラーバン中綱」で作品を展示しているのは、2017年の第1回から「北アルプス国際芸術祭」に参加し、地域を巻き込んだプロジェクトを展開しているコタケマンだ。今回は、山の主(ぬし)が宿る場所を探し出し、その土地の土を使って人々が踊りながら巨大な絵を描くまつりを3回開催。そこで描かれた巨大な作品を分割し、展示している。制作途中で何度も雨に降られ、そのたびに書き直したという。作家は「山の神にやり直せと言われたよう。自分がコントロールして描いているのに、コントロールされているようだった」と語った。 「ラーバン中綱」で展開する「カフェ&レストランYAMANBA」で作品を展開しているのは種や実などの小さなものを集め、やがて土に還るような作品を展開しているアーティスト蠣崎誓(かきざきちかい)。種籾(たねもみ)、草木染め籾殻(もみがら)、白樺、花豆、小松菜種など、253種もの自然の素材を整然と並べ、「泉小太郎伝説」など大町に伝わるさまざまな民話やこの地の暮らしをモチーフに美しいレリーフで表現した。素材は半分以上が地元の人から提供を受けたもので、展示終了後、希望者に種を配布する予定だという。 ■ダムエリア 大町市は黒部ダムへの玄関口としても知られ、さらに北アルプスの麓に大町、七倉、高瀬という3つのダムを擁する。磯辺行久は2021年に続き、石や岩石を積み上げたロックフィルダムとして知られる七倉ダムでインスタレーションを展開。《北北西に進路を取れ》と題した今回の作品は、綿密なリサーチによりダムができる前の高瀬川の流れを吹き流しを並べて表現。さらに円形に積み上げた石でコンパスを描き、軸としての北北西の方角を示した。自然や地形、水の流れの変化が、七倉ダムのダイナミックな景観にオーバーラップする壮大なランド・アートだ。 ■源流エリア 北アルプスの豊富な雪解け水をたたえる鹿島川流域。のどかな田園風景のなかに浮かび上がるように現れる鎮守の森に佇む須沼神明社の神楽殿では、イタリアと日本を拠点に活動している宮山香里の《空の根っこ -Le Radici Del Cielo―》が展示されている。「空」と「大地」など反対の概念にあるものの関係やつながりをテーマに作品を制作している宮山。神と人間との接点ともいえる神楽殿で、絹に木版で描いた羽衣のような布がたなびく様子は、空に流れる雲のようでもあり、大地に根差した根っこのようでもある。「空」と「大地」が溶け合うような空間を表した神秘的な作品だ。 既存の作品も含め、上記に紹介した以外にも多くの作品が5つのエリアに点在している。オフィシャルツアーやアートバスなども上手に利用し、なるべく多くの作品を効率よく鑑賞しよう。 なお、10月12日(土)・13日(日)・14日(月)の3日間は、爺ガ岳スキー場の野外特設舞台にて、藤田貴大が作・演出を務めるカンパニー「マームとジプシー」による公演「equal」が上演される。こちらも合わせてチェックしてほしい。 <開催情報> 「北アルプス国際芸術祭2024」 2024年9月13日(金)~11月4日(月・祝)、長野県大町市(5つのエリア|市街地、ダム、源流、仁科三湖、東山)で開催 ※水曜定休