なぜヤクルトは阪神との”天王山初戦”に快勝しVマジック「11」を点灯できたのか…捕手配球と4番リーダーシップの差
象徴は6回である。先頭の代打木浪にライト前ヒットを許し近本を迎えた。外角への146キロのストレート。初球から打って出た3割打者の近本はバットの下で叩きセカンドゴロ。併殺とはならなかったが、続く中野に対してもフォークを見せておいてから同じく外角へストレート勝負。押し込まれた中野はセカンドゴロに終わり、今度は併殺が成立した。 近本は4打席ノーヒット。中野は併殺打の後にベンチに引っ込んだ。 一方の2試合連続完封勝利中だった“虎の切り札“高橋は奥川に投げ負けた。立ち上がりの1回一死一塁から村上に外角へ投じたカットボールをジャストミートされた。右中間を割るタイムリー二塁打。2回に西浦にレフトポール直撃の一発を浴び、5回一死二、三塁から塩見に2点タイムリーをライト前へ弾き返されて4失点である。 阪神で昨年まで7年間コーチを務めた評論家の高代延博氏は、奥川と高橋の明暗をわけたのは、「キャッチャーのリードの違いだった」という見方をした。 そこが際立ったのは5回のシーンである。無死一、三塁から奥川がバントを決めて一死二、三塁となり、1点ビハインドの阪神は前進守備を敷いた。 高代氏は「塩見はゾーンの目付を上げて外野フライ狙いだった」と推測した。 その初球に梅野はインコースに寄ったが、ストレートが逆球となり、しかも高めに浮いた。コンパクトに振り抜いた打球はライト前に打ち返された。 「塩見は、そこまでの2打席に凡退したが、すべて初球を打ってきた。積極的な姿勢。その傾向と、塩見の狙いを考えると、ここは慎重に入るべきで、まして、この日の高橋は中5日に影響からなのか投げ急ぐようなフォームになっていて調子はよくなかった。スライダー、ツーシームを選択すべきだったし、梅野ももっと大胆に打者に寄るなどして、ジェスチャーで”ボール球でいいんだよ”ということを示すべきだった」 一方の中村は、冷静に打者心理の裏をかくリードをしていたという。 「奥川もベストな状態ではなかったが、中村が奥川のコントロールを信頼して内角球を軸に組み立てて、うまく相手の読みを外した。ストレートに絞っていた近本に対する配球なども絶妙。第一打席の初球にポンと120キロのスライダーでストライクを取ったことで、近本の狙いに迷いが生まれたと思う。8回にはセットアッパーの清水が、近本をハーフスイングで三振に打ち取っているが、このときも追い込んだボールがフォーク。近本の頭の中には、そのボールが残っているところにストレート勝負。7回二死満塁から田口にボール球のスライダーを要求したところも勇気の必要なサインだったと思う。中村のリードが一枚上手だった」 20歳の奥川と21歳の村上という若きエースと4番が躍動したゲームを6年前の優勝を知るベテラン捕手が見えない部分を支える。9連勝のあと連敗を挟んで再び7連勝。ヤクルトが勢いずくわけである。