「涙の124票差」に、正反対の「風」。注目区の「隣」で起きていたこととは 知られざる選挙区で振り返る、10月の衆院選悲喜こもごも
50回目となった10月の衆院選では、全国的に強い「風」が吹いた。派閥裏金事件に端を発する自民、公明両党への逆風だ。追い風を受けた立憲民主党は躍進し、「手取りを増やす」の公約とSNS戦略で若年層に支持を広げた国民民主党も大きく議席を伸ばした。与党は過半数割れし、石破茂首相は難しい政権運営を強いられている。 【写真】「SNS無視できぬ情報源に」「物語性必要、リスクも」「第三者の拡散、選挙戦左右」 ネット選挙解禁11年
永田町の景色を大きく変えた国政選挙を個別の選挙区で見ると、少し異なる事情が見えてくる。ここでは3つの選挙区を取り上げたい。共通するのは、いずれも注目区の隣や近隣に位置する点だ。 鳥取では、立憲民主党への追い風を全く感じられなかった候補者がいた。大阪では、日本維新の会が「完全制覇」を果たし、公明党が4小選挙区で全敗する傍らで、立民がある「兆し」をつかんでいた。和歌山では維新候補が全国一の僅差で勝利を逃した。それぞれの悲喜こもごもを振り返る。(共同通信=古結健太朗、伊藤怜奈、上原香廉) ▽鳥取には「逆の風」が吹いていた 自民、公明両党が過半数割れする中、鳥取県の2選挙区ではいずれも自民候補が圧勝した。1区は首相に選出されたばかりの石破茂総裁で、13回連続の選挙区当選。立憲民主党が旧民主党系を含め2009年以来となる候補者を擁立し、共産党と三つどもえになった選挙で、得票率は85%を超えた。選挙区に一度も入らなかったにもかかわらず、他候補を全く寄せ付けなかった。
県西部の米子市を中心とした2区で勝利したのは赤沢亮正氏(64)。石破首相の「側近」として長年行動を共にし、石破内閣が発足すると晴れて経済再生担当相として初入閣を果たした。この赤沢氏に挑んだのが立民の湯原俊二氏(62)だった。当選はこれまで2回。赤沢氏とは6回目の戦いで、選挙区では一度も勝てていなかった。前回2021年は接戦の末に比例代表で復活当選した。湯原氏は今回の選挙期間中、こんなフレーズを繰り返していた。「有権者の判断を信じる」 ところが、鳥取だけは全国とまるで反対の風が吹いてしまった。 ▽「6度目の正直」を阻んだのは人情? 湯原氏は選挙戦中盤、聴衆もまばらな街頭演説で、語気を強めてこんな話をしていた。「首相が出た山口も広島も、街は良くなっていない。政権を代えて、国づくりを根本から変えないといけない」。派閥裏金事件で自民に厳しい目が向けられる中での選挙戦。湯原氏自身は「6度目の正直」に期するものがあった。