「涙の124票差」に、正反対の「風」。注目区の「隣」で起きていたこととは 知られざる選挙区で振り返る、10月の衆院選悲喜こもごも
ところが、報道各社の情勢調査では序盤から劣勢だった。湯原氏本人の口からはこんな言葉が漏れた。「鳥取だけは他と逆の風が吹いている」。対する赤沢氏は選挙戦後半、現職閣僚として他候補の応援演説に回った。湯原氏は選挙区に張り付き、街頭演説や集会を積み上げた。それでも結果は倍近い差をつけられての惨敗。重複立候補していた比例代表での復活当選もならなかった。立憲民主党の前職で落選したのは、湯原氏を含めて全国で2人しかいなかった。 湯原氏は復活当選の可能性が消えると、記者団を前に淡々と結果を振り返った。「鳥取から石破首相が出て、赤沢さんも閣僚になって。他の都道府県と正反対の風が非常に強く吹いた。大変な逆風だった」 立民の県連幹部はこう振り返る。「自民党総裁選から一気に向かい風になった」。衆院選期間中には、派閥裏金事件で非公認となった候補が代表を務める自民党支部に、党本部が活動費を支給したことが明るみに出た。自民批判はさらに強まった。それでも湯原氏が勝てなかった理由について、県連幹部の分析はこうだ。「鳥取県民は人情がある。追い込まれれば追い込まれるほど、石破政権を支えなければいけないという意思が働いたのだろう」
▽「独立国家」大阪で見えた兆し 日本維新の会の本拠地大阪では、19ある選挙区全てで維新の候補者が勝利した。選挙区ごとに当選者を落とし込んだ全国地図で、大阪だけは「維」の文字が埋め尽くした。SNS上ではこんな声が上がっていた。「独立国家のようだ」 大阪の注目は、維新が公明党と初めて直接対決した4選挙区。公明は支持母体の創価学会を中心に全国から支援者を大量投入したが、及ばなかった。両党とも候補者に比例重複立候補を認めない背水の陣で、文字通り激戦を繰り広げた。創価学会幹部は振り返る。「死力は尽くした。想像以上に維新の岩盤が固かった」 全国的には議席を減らした維新が、大阪では地力を見せつけた。公明との死闘に隠れて、立憲民主党のある候補者は反転攻勢の「兆し」を感じ取っていた。府北部に位置し、高槻市が中心の大阪10区で比例復活した元職の尾辻かな子氏(50)だ。選挙区当選者の得票に対する比率を示す「惜敗率」は74%。比例近畿ブロックの立民候補者では最後の議席となる4位に滑り込んだ。