「涙の124票差」に、正反対の「風」。注目区の「隣」で起きていたこととは 知られざる選挙区で振り返る、10月の衆院選悲喜こもごも
▽激しい保守分裂選の傍らで 今回の衆院選で全国一の僅差となったのは、衆院和歌山1区だった。ただ、和歌山に2つある選挙区のうち、注目度は隣り合う2区(白浜町など)の方が圧倒的に高かった。二階俊博元幹事長の後継として自民党から立候補した三男の伸康氏に挑んだのは、自民の参院幹事長を務めていた世耕弘成氏。派閥裏金事件で責任を問われて離党し、無所属での出馬となった。かねてくら替えが取り沙汰されていた世耕氏が動いたとあって激しい保守分裂選が予想されたが、ふたを開けると世耕氏の圧勝に終わった。 和歌山市などで構成する1区で争ったのは日本維新の会の林佑美氏(43)と自民の山本大地氏(33)。2023年の補欠選挙で初当選した前職の林氏に、新人の山本氏が挑む構図だった。いずれも和歌山市議出身で、同期当選組の争いとなった。 ▽「自分は何と戦っていたのか」 和歌山は「保守王国」とも呼ばれ、自民の支持基盤が厚い。自民の山本氏は「王道」の組織戦を展開した。決起集会にはおよそ1000人を集めた。公示後の出陣式や演説会でも、多くの自民党議員や支援者が姿を見せた。事務所には、必勝を祈願する党幹部らの「ため書き」がずらりと並んだ。その山本氏は投開票日前夜、記者団に囲まれると思いも寄らぬ本音をこぼしていた。「相手の顔が見えないのがつらかった。自分は何と戦っていたのか」
林氏は選挙カーで住宅街の細い裏路地をくまなく走り、道行く人に握手をして回った。山本氏の陣営には姿が見えなかったようで、選挙戦術は「ステルス作戦」と呼ばれた。街頭演説も、吉村洋文大阪府知事ら維新幹部が来た日以外はほとんどなかった。 ただ、「見えていなかった」のは林氏も同様だったようだ。選挙戦最終日、記者団に手応えを聞かれるとこんな言葉が返ってきた。「全くないです」。終始、本人も首をかしげたままだった。 ▽0・03%の有権者 自民党にも日本維新の会にも逆風が吹いていた和歌山1区。敗れた林氏の惜敗率は99・8%に達した。なぜこれほどの接戦となったのか。 林氏の陣営は野党候補者の乱立を要因に挙げて悔しがる。「立憲民主党の候補が出ていなければ圧勝だった」。林氏が初当選した2023年の補欠選挙では自民、共産、政治家女子48党(当時)の3候補が相手だった。今回は立民も候補を擁立し、自民への批判票が流れたとみる。