「成長物語がしんどい時もある」『後宮の烏』原作者・白川紺子が新作で描く、不完全な自分を受け止める方法【インタビュー】
――『後宮の烏』も中華風の世界観ですが、もともと中国の文化にご興味があったのでしょうか。 白川:岡本綺堂が翻訳した『中国怪奇小説集』という作品に触れて、中国の不思議な話に興味をもつようになったんです。大学時代は第二外国語に中国語を選択して、中国文学も勉強したんですけど、なにぶん世界史音痴なもので(笑)。歴史的な背景は『後宮の烏』を書くときに一から勉強しました。 琬圭は成都随一の高級旅館を営んでいるという設定ですが、これは邸店と呼ばれるもので、ただの宿泊施設ではなく、遠隔地から商売にやってくる客商が主な宿泊客であるため、品物を預かる倉庫があったり、仲介業を行ったりしていたんです。蘭芳の設定しかり、調べて興味を惹かれた当時の文化が、作中に反映されています。 ――さまざまな境界に触れながら、徐々に夫婦らしくなっていく二人の物語を描いて、改めて見えてきたものはありますか。 白川:夫婦って、不思議ですよね。コロナ禍で夫がリモートワークになったとき、四六時中一緒に過ごすことになったんですけれど、思いのほか、それがいやではなかったんです。生まれ育った環境の違う他人が、毎日、何年も一緒に暮らし続けることができるというのはすごいことなんだなと改めて思いました。誰とでもできることではないからこそ、出会いがかけがえのないものとなる。足りないところを補いあいながら理解しあう、寄り添いあうことの意味をこれからも書いていきたいなと改めて思いました。 ――人としての見た目は少女に過ぎない小寧を、琬圭が尊重し、いきなり夫婦らしくなろうとするのではないところも、今作はよかったですね。 白川:いくら昔の話とはいえ、いきなり艶っぽい関係になるのはどうかなと思いましたし、琬圭も最初は子守気分にしかならないだろうな、と。でも、時間をかけてじっくり信頼を育んでいくことが、二人にとっては必要だったのでしょう。でも「あ、この人なんだ」と天啓がくだるように確信する瞬間って、人それぞれだと思うんですよね。二人とは違って、出会ったその日から恋が始まる夫婦がいてもいいし、恋愛とはまた違う感情で繋がる夫婦がいてもいい。いろんなかたちを描いていけたらと思います。 ――個人的には、この先の二人も知りたい……というか、もっと二人が解決する幽鬼の話を読んでみたいのですが。 白川:あまり考えていなかったですが、そうですね……もし機会があれば。そして読者のみなさんが望んでくださるのならば、書くこともあるかもしれません(笑)。『後宮の烏』のアニメ化で、読者層が広がったのを感じる一方、それ以前からずっと私の作品を好きでいてくださる方もいて。 毎年、参加している星海社のミステリーカーニバルというイベントに、読者のかたがたくさん来てくださって感激したこともありました。みなさんのおかげで書き続けていられることを日々実感します。今作は初の単行本ということで、これまでとは形式も値段もやや異なりますが、変わらず楽しんでいただけることを願っています。
取材・文=立花もも、撮影=川口宗道
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