被写体に「お金貸して」と土下座されたら?「ドキュメンタリー」という表現の面白さ【鈴木おさむ×阿武野勝彦】
被写体との関係性の変化も含めて作品
鈴木:それで言うと僕、2023年にABEMAで『BAD HOP 1000万1週間生活』という番組を企画・ディレクションしたんですよ。BAD HOPというグループに1000万円を渡して、1週間でどう使うかを追う内容なんですけど、彼ら、自分たちのライブをやるために金を増やそうとして韓国のギャンブルに行くんです。ところが、300万円すっちゃった(笑)。 そうしたら帰国後、「もう1回韓国行ったら勝てるから」と僕に言って、勝手に韓国行きの航空券を取っちゃったんです。完全に想像外だったんですが、僕はそこで、彼らに懇願されて100万円を渡しちゃったんですよ。銀行でお金をおろして、追加で。そしたら、その100万が1000万になった。本当に勝っちゃったんです。 阿武野:(笑) 鈴木:「1000万円生活」ってルールを僕が自分で破っちゃってるし、100万渡したことで関係性は明らかに変化しちゃってる。妻(森三中・大島美幸)からは「仕事辞めるのに何してんだ」って怒られました。だけど、僕も当事者としてその中に引きずり込まれることで「面白く」なるんだったら、それでもいいのかなって。そのとき、『ホームレス理事長』や森監督の言葉が結構ちらつきましたね。 阿武野:圡方君が後に監督した『さよならテレビ』(18)で、彼は東海テレビの新人記者の求めに応じてお金を貸していました。そのシーンはちゃんとカメラに収めて映像化しています。たぶんそのときの圡方君は森さんや鈴木さんと同じように、「貸したほうが面白い」と思ったんでしょう。 鈴木:何かを撮っていれば、撮り手と被写体の関係性が必ず出てくる。『いもうとの時間』ももちろんそうで、取材チームとの関係性が密になり、情も湧いてくる。そこも含めての作品なんですよね。 ◇第2回に続く(1月10日に配信予定)。炎上などのリスクがつきまとうネット時代の映像コンテンツのあり方について、物議を醸す作品を数多く制作してきたふたりに語り合ってもらった。 『いもうとの時間』は2025年1月4日(土)よりポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー!
稲田 豊史(ライター、コラムニスト、編集者)