被写体に「お金貸して」と土下座されたら?「ドキュメンタリー」という表現の面白さ【鈴木おさむ×阿武野勝彦】
被写体への「関与」は許されるのか
――鈴木さんが過去の東海テレビドキュメンタリーで印象に残っている作品は。 鈴木:一番好きなのは『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』(13)(※)です。皆が見過ごしていた教育、体罰といった題材のああいう見せ方は本当にすごい。山田理事長の行動は単純に笑ってしまうし、かなりクレイジーにも感じてしまう。彼が金策に困って、カメラが回っている前で圡方宏史ディレクターに金を貸してほしいと土下座するけど、圡方さんは断るんですよね。 ※『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』 高校を中退した元球児たちを集めた「ルーキーズ」という野球チームを運営するNPO法人を追った作品。資金繰りに四苦八苦する山田豪理事長の姿が印象的。 ――圡方さんは「我々が関与することでルーキーズの山田さんなりの環境ってのを変えるわけにいかんもんですから。それがドキュメンタリーの......基本的なルールですから、そこの一線はちょっとどうしても譲れない」と言いますね。 鈴木:僕が同じ立場でも、貸さない一択だと思いました。 阿武野:貸さない!? どうしてですか? 鈴木:何かを大きく事故らせてしまうような気がして。実は『ホームレス理事長』を観たタイミングが森達也監督の『FAKE』(16)(※)が公開されたタイミングで、その宣伝でラジオに来てくれたことがあって。そこで森さんに直接聞いてみたんですよ。森さんだったら、どうしますか?って。そうしたら森さんは自分が面白くなると思うほうでやる的なことを言ってました。そういう考え方もあるんだよなと思いました。 ※『FAKE』 2014年にゴーストライター騒動で世間から一斉にバッシングを受けた佐村河内守氏に密着した作品。終盤、監督の森はカメラの前で佐村河内に「作曲しませんか?」と提案する。 阿武野:面白いか面白くないかで決めると。 鈴木:森さんって結構仕掛けていくスタイルのドキュメンタリー監督だと思うんです。『FAKE』でも佐村河内守さんを結構つつきますし。で、僕はそう聞いて、「あ、“貸す”もドキュメンタリーなのか」って思ったんです。 阿武野:お金を貸すか貸さないかについては、後々ですがスタッフの間でも意見が真二つに分かれました。圡方君に「なんで貸さなかったの?」と聞いたら、「貸してしまうと取材対象の山田さんとの関係性が変わってしまう」と言う。私は「お金を貸して関係性が変わってもいいじゃないか、ただし貸したシーンはちゃんと映像化するべきだ」と伝えました。金の貸し借りで関係性が変化したこともちゃんと表現できていれば、問題ない、と。