「正月映画」は消えたのか──ネット配信だけが要因ではない日本の生活様式の変化 #昭和98年
洋画の記念碑的作品は正月映画から生まれた
もちろん洋画も正月興行では、その年を代表する大作が公開され、各配給会社もド派手な宣伝を繰り広げていた。たとえば1976年の年末。大ヒットが確約されていた『キングコング』に対し、ヨーロッパ大陸縦断特急を舞台にしたパニックアクション『カサンドラ・クロス』がハッタリ的な宣伝合戦を繰り広げ、ともに大健闘の数字を残したことは、映画業界でも伝説として語り継がれている。それほどまで映画会社は正月映画に“賭けて”いたのである。 その後も正月映画では、その年を代表する特大ヒット作が相次いだ。特に洋画の記念碑的作品は、以下で示すように12月公開が多い(歴代順位は日本での興行収入ランキング)。 歴代3位『タイタニック』(1997年12月20日公開) 歴代7位『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年12月1日公開) 歴代12位『アバター』(2009年12月23日公開) 歴代21位『ラスト サムライ』(2003年12月6日公開) 歴代23位『E.T.』(1982年12月4日公開) 歴代23位『アルマゲドン』(1998年12月12日公開) 歴代33位『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年12月18日公開) ※興行通信社「歴代ランキング」から その他にも『インデペンデンス・デイ』(1996年12月7日)など、正月映画として公開され、その年の代表作となった洋画は数多い。夏休みなど他の時期に比べ、世代を超えて誰もが楽しめる“間口の広い”話題作が、正月映画として公開されるケースが目立っていた。
近年は正月映画の存在感が薄れつつある傾向
しかし近年、正月映画という独特の存在感が薄れつつある。ここ数年の正月映画の時期に公開され、最も当たった作品(邦画・洋画を含めて)の、年間の興行収入のランクを振り返ると……。 2018年『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』5位 2019年『アナと雪の女王2』2位 2020年『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』2位 2021年『新解釈・三國志』7位 2022年『劇場版 呪術廻戦 0』2位 2023年『THE FIRST SLAM DUNK』1位 このようにそこそこ上位を獲得しているものの、これらの作品を「正月映画」と結びつける感覚は、ゼロに近い。象徴的だったのは、2022年末に公開され、全世界で特大ヒットを記録した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で、残念ながら日本での成績はいまひとつだった(前作が興収159億円で、この続編は43.1億円)。かつてなら“正月映画の洋画の目玉”として宣伝されていたであろう作品だ。 では2023~24年の正月映画は、どうなのか。洋画では『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(12/8公開)、『ウィッシュ』(12/15公開)、『ハンガー・ゲーム0』(12/22公開)と、毎週のように注目作が続いたものの、かつての正月映画の堂々たるイメージとはやや異なり、たまたま12月に公開されているだけ……という印象もある。邦画も「寅さん」や「ゴジラ」といった国民的作品が正月映画として公開される習慣は消え、2023年は『ゴジラ-1.0』が大ヒットして映画館をにぎわせるも、同作の公開は11月3日。2023年で最大ヒットとなった『スラダン』は2022年12月公開なので一応“正月映画枠”ではあったが、そこが強調された感じではない。