「正月映画」は消えたのか──ネット配信だけが要因ではない日本の生活様式の変化 #昭和98年
1つ目の要因はハリウッドのストライキの影響
また、『アバター』続編があった前年と違って、2023年に限って年末公開の洋画がやや小粒な印象となった要因として、ひとつのトピックが考えられる。それはハリウッドのストライキの影響だ。日本で「正月映画」の感覚が薄れていく一方、アメリカでの「ホリデーシーズン」映画の威力は今も健在。しかし2023年は、ストによって『デューン 砂の惑星 PART2』など話題作が公開を延期。年末の映画商戦はやや地味になった(その結果もあってか、日本映画の『君たちはどう生きるか』『ゴジラ-1.0』がアメリカでもヒットした)。とはいえ、日本では年々、ハリウッド大作の大ヒットが難しい状況になっており、よほどのインパクトの作品ではない限り、正月映画として洋画が大成功を収めることは難しいのが現実。それが必然的に正月映画の衰退を呼んでいるとも考えられる。
ネット配信の活況も要因に挙げられる
ただし、ヒットするかどうかは別にして、正月映画らしい洋画の大作は、2023年末にも存在していた。たとえばリドリー・スコット監督の超大作歴史ロマン『ナポレオン』は、12月1日に日本で劇場公開されている。ところがこれは、配信のApple TV+が製作した作品。同社での配信を前に劇場公開されたため、これだけの大作のわりに宣伝はやや地味だった(劇場公開はソニー・ピクチャーズが担当)。ひと昔前なら、正月映画の本命のひとつとして、大がかりなキャンペーンを行ってもおかしくない作品が、サラリと公開された印象。少し前だが、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(10月20日公開)も、日本で正月映画として公開してもよさそうな堂々たる大作だった。こちらも製作はApple TV+である。
このように配信がポピュラーになった近年の映画界。Netflixでも、2023年12月にはハリウッド製の超大作『REBEL MOON ― パート1: 炎の子』が配信スタートした。『スター・ウォーズ』を彷彿とさせる銀河系での活劇アクションで、配信がなかった時代なら、確実に正月映画の本命になったであろう一本。それをNetflixは年末年始にぶつけてきた。Apple TV+も、Netflixも、年末に勝負作を出してくる流れに、かつての正月映画戦線の名残が感じられる。劇場における正月映画ムードの減退は、配信の活況とも無縁ではない。