ルーマニア大統領選、「TikTok工作」で泡沫候補が最多得票 再選挙へ
EUも調査に乗り出す
予想外の選挙結果を受け、欧州連合(EU)も調査に乗り出した。 EUは2024年2月、デジタルサービス法(DSA)を施行した。EU域内でデジタルサービスを提供する企業に対し、違法コンテンツの削除などを義務付ける法規制だ。12月5日、EUはこのDSAに基づいてTikTokの監視を強化すると発表した。 「TikTokに対してルーマニアの選挙に関連するデータと証拠を凍結、保存するよう命じた」。欧州委員会で執行副委員長を務めるヘンナ・ヴィルクネン氏はこうコメントし、この命令は今後EUで行われる選挙にも適用されるとした。 ルーマニアの大統領選挙が、なぜ欧州全体を揺るがす大問題となったのか。それはルーマニアが東欧における対ロシアの「防波堤」になっているからだ。 1989年末のルーマニア革命でチャウシェスク独裁政権が倒れ、ルーマニアは民主化した。2004年にはNATOに加盟し、07年にはEU加盟も果たした。国内には米軍が駐留し、米国が提供したミサイル防衛システムも配備されている。 24年3月末には欧州域内を自由に移動できるシェンゲン協定の適用が始まり、空路と海路による出入国審査がなくなった。25年1月には陸路の国境審査もなくなり、シェンゲン協定に“完全加盟”する見通しだ。 筆者がこの夏、ルーマニアを訪れた際も、首都ブカレストには平穏な空気が流れていた。通貨はユーロではなく、いまだルーマニア・レウだったが、米コーヒーチェーンの「スターバックス」やドイツのドラッグストアチェーン「dm」、フランスのスポーツ用品チェーン「デカトロン」などが進出していた。民主化して35年、すっかり平和を取り戻し、西側諸国の仲間入りを果たしたと感じた。 ルーマニアはウクライナと国境を接しており、軍事上でも欧州の要になっている。折しも隣国モルドバで、EU加盟の是非を問う国民投票と大統領選挙でロシアの介入が疑われたばかり。黒海の向こう側に位置するジョージアでは、親ロシア派の政権与党が勝利した総選挙結果を、親欧米派の大統領が認めず、大規模なデモが頻発している。 こうした状況下でルーマニアに親ロシア派大統領が誕生すれば、欧州全体の安全保障が揺らぎかねない。EUとしては何としてもロシア化を食い止めたい情勢だ。