「さらばモデル年金」誰も知らない財政検証の進化
もっとも、先に「足下の所得代替率確保に必要な受給開始時期の選択」でみたように、今はまだ若い人たちをはじめ、65歳以降まで繰り下げ受給を選択すれば給付水準は相当に高くなります。ここでも、男女を問わず65歳以上の人たちも働きやすくなる労働環境の整備が年金の給付の十分性を高めるためには効果がある政策であることがわかります。 公的年金保険制度というのは、その年に生産された付加価値(所得)の総計のうち、どれくらいを公的年金に回すかを決める所得の分配装置とも言えます。この分配装置は、日本では主に被用者保険として設計されています。
そのため、今はGDP(国内総生産)の1割強を公的年金に分けていますが、就業率が高まり被用者が増えれば、(長期保険であるためにタイムラグはありますが)GDPのうちから公的年金に分配される割合は高まっていきます。 その動きを公的年金サイドから見れば、それは、年金の給付の十分性の高まりというように見えることになるわけです。 次の図は、2004年の公的年金の財政再計算時に想定されていた、被用者保険被保険者数と第3号被保険者数の見通しとその実績です。2004年時には、将来の被用者保険被保険者数は過少に、第3号被保険者数は過大に見込まれていました。
そうした2004年時の見込みの間違いはよいことなのか、それとも悪いことなのか――見込み違いのおかげで、2004年時の試算よりも、今は、幸いにも給付の十分性は高まっています。 次の図は、第3号被保険者数のこれからの見通しです。今後とも、大幅に第3号被保険者が減少していくことが見通されています。このことは、給付の十分性がどんどん高まっていくことを意味しています。 ここで、共働きの世帯をイメージしてください。
ともに、厚生年金があるのならば、モデル年金で示される片働きのときよりは、その家計は給付の十分性が高まり老後の生活にはかなり余裕がでてきます。世間で言われている、「年収の壁」「働き損」「3号はお得」という噂が、いかにミスリーディングな話であるかわかると思います(「怖い“集団催眠”専業主婦年金3号はお得でズルイ」)。 こうした3号理解に関する集団催眠状態にあるとも言える誤解を解くために、東京都のくらし方会議は、女性がほぼ平均寿命まで生きた場合、継続就労型のライフコースを選択すれば出産退職型ライフコースに比べ、退職金を除いても生涯の世帯収入で約2億円、うち年金で約3000万円多くなることを試算していました。