死の淵からマツダを復活させた1本のビデオ
3分にも満たないビデオから
そうした人々の中で、マツダの人たちが特にマツダ再生の原点として挙げるのは、マーク・フィールズ氏だ。彼は一体何をしたのか? マツダには「ブランド・エッセンス・ビデオ」というものがある。3分に満たない短い映像の中に、マツダは何をして社会に貢献していく会社なのかという28のショートメッセージがちりばめられているだけで、饒舌と言うには程遠い動画だ。この映像を作らせたのがマーク・フィールズ氏だった。冒頭から4つだけメッセージを切りだしてみる。 ある日人は生まれ。 感動的な体験をする。 それは「ブーンブーン」とものを動かすときに…… 沸きあがるときめき。 こうした短いセンテンスによって、立ち戻るべき原則が定義され、バラバラになった会社をもう一度ひとつの意思の下に統一する原則が打ち出されているのだ。意見が対立したらそこに戻ればいい。「その体験は感動的か?」。シンプルであるがゆえに堅牢である。 「続けられる仕組みをフォードが作って、マツダがそれを継続してきたのです」マツダの再生ストーリーを主査はそう表現した。「ロールフォワードではなくバックキャスティングでやっていくのです」―― これは多分「フォアキャスティングではなく」の言い間違いだと思うが、勝手に発言を変えるわけにもいかないので、一応筆者の修正付きだと断って解釈したい。 デジタル大辞泉によれば、フォアキャスティングとは「過去のデータや実績に基づいて、その上に少しずつ物事を積み上げていくやり方。また、その方法で将来を予測すること」。バックキャスティングとは「将来を予測する際に、持続可能な目標となる社会の姿を想定し、その姿から現在を振り返って今何をすればいいかを考えるやり方。目標を設定して将来を予測すること。」 辞書だけでは分かりにくい。彼らは現実のクルマ作りの時に「理想は何なのか?」と議論し続けるのだそうだ。筆者はその言葉に正直ちょっと引いた。「理想って、本当にそんなに青臭い言葉を使うんですか?」。「理想なんて本来青臭いものです。青臭くなきゃおかしいじゃないですか」。なるほど辞書の定義は正確だ。理想を遠くの目標に置いて、そこに到達するために今できることを考える。彼らはそうやってクルマを作っていると言う。