死の淵からマツダを復活させた1本のビデオ
2002年、マツダはどん底を抜け出し黒字転換を果たした。日本人社長が久しぶりに就任した。前後して新たなブランドメッセージとして「Zoom-Zoom」が展開される。マツダの説明によれば、Zoom-Zoomとは子供がクルマの走行音を表す際に使う「ブーブー」の英語版で、おもちゃのクルマなどに夢中になった、子供のころの動くものに対する感動を表現している。 それはブランド・エッセンス・ビデオのメッセージをほぼそのまま引用したものだ。 「ブーンブーン」とものを動かすときに沸き上がるときめき ものを作るにはリファレンス(基準)がいる。「いいクルマ」と言ったところで人それぞれだ。しかし一台3万点と言われる恐ろしい数の部品の集合体であるクルマを作る時に、人それぞれでは困る。マツダはそれを1本の動画で共有することに成功した。
マツダは何をしていく会社なのか
そうした明確なリファレンスがあって、「SKYACTIV」のような基盤技術が生まれて来る。2010年にSKYコンセプトとしてスタートしたSKYACTIVテクノロジーは、省エネと低環境負荷、高い安全性能と走行性能など、クルマに求められる多元的性能を総合的に引き上げる基盤技術群だ。 「妥協のない製品」と人は簡単に言うが、そんなものはあり得ない。モノづくりとはいくつもの相反する要素の最適な折り合いポイントを見つけることだ。モノづくりの本質は妥協そのものなのだ。ではその折り合いはどういうものでなければならないのか? その答えがこのブランド・エッセンス・ビデオにあるのだ。 「池田さん。今度マツダの株を買ってください。株主総会は必ずブランド・エッセンス・ビデオから始まります。株主だけじゃないです。マツダの全スタッフも年に一度全員で集まって、必ずこのブランド・エッセンス・ビデオを見ます。設計とか販売とかだけじゃないんです。工場でクルマを組み立てるスタッフも、広島の本社の側にあるマツダ病院の看護師も、全員で見るんですよ。そうやってマツダは何をしていく会社なのかを確認して共有するんです」 ブランド・エッセンス・ビデオは、登場するクルマの映像などをわずかに差し替えながら、1999年に作られた時からずっと彼らの中で共有され続けている。 5チャネル化で見た100万台の夢は最悪の悪夢に終わったが、2015年3月期 第3四半期の決算説明資料には、次の様に書かれている。「グローバル販売台数は、対前年5%増の140万台の見通し」「通期利益見通しは、営業利益2,100億円、当期純利益1,600億円と変更なし」。 (池田直渡・モータージャーナル) ■マツダ・ブランド・エッセンス・ビデオ(Youtube 公式)