逆転で金メダル1号…なぜ34歳“レジェンドスイマー”鈴木孝幸は13年ぶりの頂点に立てたのか…引退翻意から5年の努力と挑戦
東京パラリンピックの男子100m自由形(運動機能障害S4)の予選、決勝が26日、東京アクアティクスセンターで行われ、日本競泳チームのキャプテンを務める鈴木孝幸(34、ゴールドウイン)が1分21秒58のパラリンピック新記録で今大会日本勢第1号となる金メダルを獲得した。鈴木にとっては2008年の北京大会の50m平泳ぎ以来となる2つ目の金メダル。前日の50m平泳ぎ(運動機能障害SB3)で銅メダルを獲得している鈴木は5大会連続で出場しているパラリンピックで通算7つ目のメダルとなった。鈴木は、この後2種目を残しており、いずれもメダル獲得の可能性がある。
ラスト10mでの逆転劇
6つのメダルコレクターらしい冷静な戦略があった。 スタート台を使う鈴木は、勢いに乗った飛び出しから、予選トップタイムを叩き出している隣のレーンのルイジ・ベジャト(23、イタリア)をピタリとマークした。50mは、わずかに遅れ2番手でターン。それでも自己ベストを上回る高速ペースで「(隣のベジャトの位置は)見えていました」という。 ラスト10m。鈴木はベジャトに並ぶと一気に追い抜いた。 「粘るという感じでした。ラスト25mくらいで向こうの方が前をいっていたと思うんですが、それから向こうが落ちてきたので、自分が落ちないように気をつけようと泳ぎました」 最後はイタリア人スイマーに1.63秒差をつけての劇的な逆転勝利だったが、鈴木は、すぐには金メダルであることを理解できていなかった。 電光掲示板を確認すると、同時に鈴木は「ウッシャー」と雄叫びを挙げて、肘から先のない右腕で体を支え3本しか指のない左手で力強いガッツポーズを震わせた。 「掲示板を確認して、1位だったのでちょっと喜びが出ました」 喜びは「ちょっと」どころではなかったが、そのあと「やりすぎました。反省しています」と、苦笑いで“取り消し”をお願いした。 予選では、世界記録保持者の最大のライバル、アミオマル・ダダオン(20、イスラエル)が、フライングでまさかの失格。“追い風”はプレッシャーや力みに変わる可能性もあったが、鈴木は動じなかった。 「彼の方が持ちタイムが速いので、彼が泳いでいたら、この色ではなかったかもしれませんが、(パラリンピックは)何がおこるかわかりません。決勝の舞台で一番速く泳げたということで非常に嬉しく思っています」 そう胸を張った。