逆転で金メダル1号…なぜ34歳“レジェンドスイマー”鈴木孝幸は13年ぶりの頂点に立てたのか…引退翻意から5年の努力と挑戦
2018年には、自由形では、S5からS4へ重度障害へのクラス変更があった。鈴木には、そのクラス分けが“追い風”となり、これまでメダルに届かなかった自由形でも勝負できるようになったのだが、世界観がガラリと変わるため対応は簡単ではなかったという。 加えて弱点も克服した。これまではレースの後半がウイークポイントだった。ペースが落ちるのだ。その原因も追究したが、スタミナ不足ではなく、緊張、プレッシャーというメンタルの影響で、前半に無駄な力を使い、後半失速することがわかった。鈴木は2013年からゴールドウインの社内研修制度を使い留学していた英国ニューカッスルに舞い戻り、ノーサンブリア大で心理学の専門家の意見を聞きメンタルトレーニングも取り入れた。 鈴木は、この日、レース後、「昨日から続いている疲労もあって心配な部分もありましたが、自信を持っていこうと泳ぎました。もうちょっと楽に力まずにスピードを上げていけたらと思いました」と語った。 弱点だった後半で逆転勝利したのも、まさに鈴木のリオ大会後の5年間を象徴する展開だった。34歳というベテランでも、技術と戦略、そして経験で勝てるのがパラリンピックの魅力でもある。 「この5年は色んなことがありました。それはチャレンジする時間でもありました。クラス分けの変更とか、自分では、どうしようもない部分の変更も、新型コロナの感染拡大で大会の1年延期もありました。自分でコントロールできることと、できないことがありましたが、自分の中でできることの最大のベストを尽くしていこうと。レースだけでなく、これまで5年をそういう意識で取り組んできました」 鈴木が口にした「今自分のできることの最大のベストを尽くす」こそが彼を支えた哲学である。 まだ鈴木の東京パラリンピックは終わっていない。 28日に150m個人メドレー(運動機能障害SM4)、30日に200m自由形(運動機能障害S4)がある。いずれもメダルの可能性があり150m個人メドレーは2つ目の金メダルを狙える種目となっている。 「明日は休みます(笑)。しっかりと休養をとって、コンディションを整えて明後日のレースに臨みたい」 ベテランスイマーの感動と挑戦の物語には、続編があるようだ。