落合陽一氏が万博で描く2025年の最先端──自分で保有する自分のデジタルコピーが自分専用のAIになる【2025年始特集】
2025年、AIはほとんどの人類より賢くなる
──2025年、そしてそれ以降、世界あるいは日本はどう変化していくと考えていますか。 落合氏:AIの進歩は非常に早く、毎日できることが拡張されているはずです。ですが、あまり拡張されていない気がする人もいます。そこがポイントだと思う。本当は皆、プログラマーとして相当優秀になっているはずですが、ほとんどの人はプログラムを書かないし、自分でブロックチェーンを構築する人は多くありません。AIとの向き合い方で大きく差がついてしまう世の中になっています。あらゆることをやり始められるはずなんだけれど。 ──計算によって生まれる拡張した自然として「デジタルネイチャー」を提唱されています。デジタルネイチャーが広がり、AIが浸透していったとき、私たちの生活はどんな風に変わっていくのでしょうか。 落合氏:自然が計算機であり、計算機が自然であって、その両者が不可分になったときに新しい自然になるというのがデジタルネイチャーの考え方です。提唱し始めたのはもう10年前になります。今、研究の現場では、生成AIを使って実験を自動化し、バーチャルとフィジカルな検証工程がAIでつながっています。物理的に起こることと計算の結果が徐々に合わさるようになっており、フィジカルとバーチャルの区別はつかなくなっていて、デジタルネイチャーにかなり近づいています。 わからないのは、地動説と天動説ぐらい世界観が変わるかどうか。地球は太陽の周りをまわっていると考えた人は多くなかったけれど、地動説は正しかった。 ──産業界で言えば「デジタルツイン」(現実世界のコピーをデジタル上に再現すること)の活用に近いイメージでしょうか。 落合氏:デジタルツインが超高速に動いているのがデジタルネイチャーとイメージしていただくとわかりやすいと思います。うちのラボでは、大手の通信メーカーや自動車メーカーなどが一緒に仕事をしています。皆さん、概ね2030年頃を想定して研究しています。 ──2030年はどんな世の中になるのでしょうか。 落合氏:あらゆるものをフルスクラッチで、より簡単に作ることができるようになります。そうした知能に満ち溢れているイメージ。コンピューターがこなせるタスクが増え、人間の知性の価値が下がると多くの人は言っています。 ──そのとき、人間は何をすればいいのでしょう。 落合氏:いいものを作る人は存在するので、センスの価値が上がるのではないでしょうか。センスを決めるのは、それまでの長いトレーニングで、アウトプットし続ける努力も重要になります。インターネット上に痕跡が残っていないと、AIの中に入ってこないからです。自分の情報がAIの中に蓄積されていくことが重要になります。 2025年末ぐらいには、たいていの問題はAIで解けるようになります。ChatGPT-4が出たのが2023年4月、その後、約1年半後の2024年9月にChatGPT o1-previewが出ました。1年半でAIへのデータ投入量は4倍になり、今はIQ130ぐらいまでトレーニングが進んでいます。IQ150くらいの推論能力があって、インターネットとつながった知性があればほとんどの問題は解けるようになります。ほとんどの人類より賢いですから。150まで持っていくのに、1年かかるか6カ月か。時間はどれくらいかという問題です。 ──最後に大阪・関西万博に来場する人へのメッセージを。 落合氏:ぜひ楽しく、遊びに来てください。万国博覧会は、世界中の博物館を集めたようなお祭りです。フィジカルな不思議な体験が、やがて一生のパスを作っていくので、ぜひ不思議なものを見て、これからの人生を考えるきっかけにしていただければと思っています。 落合陽一氏メディアアーティスト。1987年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。2017年-2019年まで筑波大学学長補佐、2018年より内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査会委員、内閣府「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを歴任。専門はHCIおよび知能化技術を用いた応用領域の探求。メディアアートを計算機自然のヴァナキュラー的民藝と捉え、「物化する計算機 自然と対峙し、質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。 |インタビュー・文:増田隆幸|撮影:多田啓介 【2025年始特集】インデックス“となりのWeb3”、日常に浸透する「夏」がやってきた【2025年始特集】一覧
CoinDesk Japan 編集部