落合陽一氏が万博で描く2025年の最先端──自分で保有する自分のデジタルコピーが自分専用のAIになる【2025年始特集】
自分のデータを自分で管理する
──Web3では、個人が自分のデータを自分で管理することが不可欠になります。ですが、そうした新しい考え方、新しい技術は世の中になかなか受け入れられにくい。2024年、Web3はもう少し世の中に広がると思っていたのですが苦戦しています。Web3 / ブロックチェーンの現状をどんなふうに考えていますか。 落合氏:Web3でなくてもいいよね、というものが増えたと思っています。Web3でしかできないものはあると思っていますが、まだ見えていません。分散型でしかできないことは多いですが、コストを払ってでも行いたいことがどれくらいあるか。 そこで出てくるのがデジタルヒューマンで、結局、自分の個人情報は自分の周辺のもので持っていたい。国が管理するデータ、企業が管理するデータ、そして個人が管理するデータがあるときに、国のデータのデータ量はどれくらいかと考えると面白い。実はあまり多くないと考えています。テキストデータぐらいしか保存できず、CTスキャンのデータなどは絶対に入れないはずです。企業が持っているデータ、つまりGoogleなどに入っているデータは結構多いでしょう。ですが私はオンラインストレージを60テラ契約していますが、そういう人は稀です。家にあるストレージ容量の方が多い。つまり、個人が持っている個人のデータの方が企業が管理しているデータよりも多いでしょう。 個人のデータを個人で持つ仕組みをどうするかと考えたときに、一番重要なデータは自分に紐づいたデータで、その最たるものがデジタルヒューマンである自分自身。それをどう管理するかを昔から考えています。 またインターネット上のデータはもう機械学習的には枯渇気味で、AIは学習できそうなデータはほぼ学習済みです。これから出てくるのはインターネット上にあがっていないデータ、つまり、オンラインにないデータです。それを今、誰が持っているかというと個人が持っています。 そうしたデータを自分がどう管理して使っていくか、どう凝縮してデジタル上の自分にコピーしていくかが今後、重要になってきます。さらに経済安全保障上、地政学的な条件として日本のデータは日本の中で持ちたいとか、データを自分のデジタルヒューマンの中に格納していくようなことはできないかと考えています。 ──自分のデータを自分で管理することの重要性に、多くの人はまだ気づいていないのではないでしょうか。 落合氏:データを集め始めると変わると思う。例えば、次に自分がAmazonで何を買うかを自分のデジタルヒューマンに入力したら、しっかり当てると思います。多くの人が重要とは認識していないデータは山ほどあります。そうしたデータを自分の端末の中で、自分のアカウントの中に、自分のものとして紐付けるにはどうすればいいか。 ──例としては少し話が飛びますが、暗号資産を自分でカストディするようになると、そういうイメージを持ちやすくなるでしょうか。 落合氏:そうかもしれないが、まだわかりません。暗号資産は、いずれ多くの人が持つようになるでしょう。ですが、ビットコインが「デジタルゴールド」だとしても、金塊を実際に持っている人は多くないように、ビットコインが急激に普及するとは思えません。今は明確な利用方法がないので。 ──デジタルヒューマンの普及についてはどう考えていますか。 落合氏:普及すると考えています。なぜなら、マイナンバーカードと同じ世界観だから。MirroredBody®︎は今年度、経済産業省のPHR実証事業(令和5年度補正PHR社会実装加速化事業。PHR:Personal Health Record。自分の健康データを自分自身で管理・活用すること)に採択されており、万博はその事業を広くお披露目する場でもあります。マイナンバーカード発行枚数は1億枚を突破しました。マイナンバーカードにあらゆる情報が紐づくと、いずれマイナンバーカードが喋るようになるかもしれません。 マイナンバーカードに紐づいてる情報だけでは、まだデジタルヒューマンが喋るための情報としては多くないのですが、マイナンバーカードには、医療データ、健康データなど重要なデータが紐づいており、自分のことをよく知っている自分がデジタル上に存在することになるはずです。 ──デジタル上の自分と、次にどんなものを買おうかみたいなことを日常的に相談するようになるのですか。 落合氏:自分のコピーが自分専用のAIになっていて、自分と対話することはそれほど多くないかもしれませんが、自分に代わりに他人と話してくれたりするでしょう。 ──アップルが昔提唱していた「ナレッジナビゲーター」がようやく実現するようなイメージですね。 落合氏:ChatGPTはかなりナレッジナビゲーター的ですが、ポイントはAI側ではなく、AIを持ってる自分が、自分のデータを自分で管理すること。AIと会話し続けることは、自分のデジタルコピーがそこにできあがるわけで、情報をどう入れていくかが重要になります。 ──自分のデータを持つ場所は、自分のローカルストレージになりますか。 落合氏:暗号化されたデータをできればオンラインに、分散型で持っていたいですが、まだ運用上の問題があり、長期的な視野が必要になります。分散型ファイルシステムのIPFSは現状ではストレージに対するガス代が結構かかりますし、動作が重い。まだ技術的なハードルが残っています。