89歳と82歳の多良姉妹「布を織り、早逝した娘が遺したピアノを弾く。やるべきことはやったから、あとはおおいに人生を楽しみたい」
美智子 あなたはピアノが弾けるからいいわね。 久美子 ピアノは48歳から始めたんよ。もともとは娘が弾いていて、東京の学校に行って就職し、弾き手がいなくなったから、「そうだ、弾いてみよう」と軽い気持ちで始めました。 その娘もがんで、46歳という若さで早逝。本当に悲しかった。けれど彼女の願い通り、終わりの日々をこの家で一緒に過ごして。安らかに逝けたので、幸せな最期だったと思います。 美智子 私は自分が生活するうえで、「風通しのいい家にしたい」というのが一番にあるのね。だから子どもが巣立つたびに、心の中で「万歳!」と言いながら、机やベッドなどをどんどん捨てていきました。夫が亡くなったときも、彼が愛用していたソファを即処分。狭い3DKには邪魔だったの(笑)。捨てられないのは、自分の洋服くらい。(笑) 久美子 私も家族構成が変わっていく過程で、その都度持ち物を整理してきた。とっておきたいものは、義父母のものでもとっておく。みっこ姉ちゃんの部屋はいろいろな作品が飾ってあってカラフルね。 うちは生活が複雑だったので、無意識にインテリアに心を落ち着かせてもらおうと思ったのか、全体的にシンプルで色のトーンもシック。でも、色が恋しいときもあって、少し華やかにしようかな。 美智子 いいじゃない。うちも少しずつ片づけてきたとはいえ、「置いといてもしょうがないな」と思うものがまだまだある。でも、もう整理する気力がない(笑)。だからあとは子どもたちがなんとかしてくれればいいなと思ってるの。 最近では、「お母さんが死んだらこの籠ちょうだいね」とか「この額は僕がもらうよ」とか言ってくれるので、もらい手があるならよかった、とちょっと安心しています。
◆老いの不安はあるけれどこの暮らしを続けたい 久美子 私は子どもに頼れないぶん、自分がしっかりしなきゃと思ってきたから、「気持ちが先」で元気なのかもしれない。明日の用事を考えて、前向きな気分で眠るんよ。みっこ姉ちゃんも一人暮らしだから元気なのかな。 美智子 そうね。いまやっているお稽古ごとがいつまで続けられるだろうかというのはちょっと考えるけど、自分の足で歩けるうちは頑張ろうと思ってます。 久美子 人とのつながりがあって、孤独ではないのがいいね。 美智子 私はいま、特別に親しくしている人はいないけれど、お稽古ごとのお仲間がいい人ばかりなの。年下の彼女たちの話を聞いているだけで、アンテナにビンビン引っかかるものがある。それが楽しくてせっせと通っています。 久美子 私は、子どもはいるけど頼れないし、夫も86歳だからいつ介護が始まってもおかしくない。いわゆる「安泰な老後」ではないけれど、そういう状況で《第三の人生》をどう過ごしたらいいんだろうとよく考えるのね。 美智子 そうね。 久美子 そこで思うのが、家族だ他人だというのは抜きにして、身近に家族みたいな関係性が持てる人が何人かいたらいいんじゃないかな、と。ご近所の方でもお友達でもいい。 私の身内は近所にいないけれど、玄関から家族のように普通に上がってくるお友達が何人かいる。そういう人たちとコミュニケーションをとりながら、「亡くなるまでこの生活を続けていけばいいんだわ」と思っています。 息子の今後のことは、福祉の知識や人に頼って、決めることは決めたのでひとまず安心。50代でこの家に来たときは不安だらけでしたが、いまは大丈夫に。 美智子 過去のいろいろな出会いや経験が糧になっているわね。
【関連記事】
- <前編>89歳と82歳の多良姉妹「〈団地一人暮らしの日常〉動画で大人気に。人生振り返れば、家事も育児も介護も私の《自己表現》だった」
- 80代夫婦と障がいを持つ息子の3人ぐらし「食べるのも作るのもとにかくシンプルに」すき焼き風煮物+魚のアラの吸い物など「一汁一菜」で
- 88歳ひとり暮らし「おばあちゃんねる」Youtuber キャベツは千切りレンチンで。鳥の手羽中は小分けして冷凍、タンパク質補給に肉は意識して食卓へ
- 「もう終わりにしてください」43歳で子宮頸癌が発覚した娘に何ができるか考え続けて…「後悔はない。これ以上はできないくらい、やり尽くした」
- 多良美智子 団地一人暮らし87歳のユーチューバー。家族で夫を看取り、次は自分の終活も「在宅ケアを受け、最期まで団地暮らしを配信したい」