小説とマンガが育てた日本のロケットベンチャーラッシュ
12月18日、和歌山からの新ロケット「カイロス」2号機の打ち上げが失敗した。カイロスは2024年3月13日に初号機を打ち上げたが、直後に異常が発生しロケットは自爆、失敗している。 2号機は中継を見る限り、第1段の燃焼末期に姿勢が崩れてしまっていた。 やれること、やるべきことは「事故調査をして対策を打ち、また打ち上げる」。それ以外に手はない。パイオニアは、「もうこりごり」と逃げることは許されない。成功するか、それとも力尽きるかの二者択一だ。いつだって先頭を行く者は、つらいのだ。 その一方で、なんだかんだで40年近く日本の宇宙開発をウオッチングしてきた私は、「ああ、やっとここまで来たか」という感慨も感じている。 カイロスはスペースワンというベンチャー企業が開発したロケットだ。モリナガさんのイラストの通り、打ち上げ場所(射点)の「紀伊スペースポート」は海に近い山地の中にある。同社は、自らもロケットを開発しているIHIエアロスペース、キヤノン電子、清水建設、日本政策投資銀行などが出資して設立した会社で、その意味では「大企業が新ビジネスのためにつくった会社」なのだが、ともあれ、ベンチャーが主体になってカイロスというロケットを造り上げた。 しかも今、日本で衛星打ち上げが可能なロケットを造っているベンチャーは、スペースワンだけではない。 ●実は日本はロケットベンチャーラッシュ 私がはっきり「衛星の打ち上げが可能な宇宙輸送システムを開発していたり、開発構想を持っている」と理解している範囲内だけでも、AstroX、インターステラテクノロジズ(IST)、将来宇宙輸送システム、スペースウォーカー、PDエアロスペース、ロケットリンクテクノロジー――スペースワンを加え、7社のベンチャーが衛星打ち上げ可能な宇宙輸送システムを開発したり、構想を公表したりしている。大手でも、ホンダがはっきりとロケットの研究に踏み出したことを公表している。 ロケットだけではなく、衛星・探査機のベンチャーも随分と数が増えた。 目立つところでは、2023年、月着陸機「シリーズ1ランダー」を月着陸直前まで持っていくことに成功した(最終的には月面に墜落した)ispace、地球周回軌道上のスペースデブリ(宇宙ゴミ)除去技術の開発を掲げて独自衛星によるデブリへのランデブー実験を成功させたアストロスケール、光学センサーを積んだ地球観測衛星のコンステレーション(同一の目的の衛星多数で構成される衛星群のこと)の構築を目指すアクセルスペース、レーダー地球観測衛星のコンステレーションを構築するSynspectiveとQPS研究所、衛星を使って人工の流れ星をつくりエンターテインメント事業の展開を狙うALE――。大手でもキヤノン電子やソニーがカメラ技術を生かした地球観測衛星を開発、運用している。 加えて、重量1kgから10kg程度の「キューブサット」と呼ばれる超小型衛星になると、大学や高等専門学校(高専)、地方の地力のある中小企業なども開発しており、枚挙にいとまがない。なかには、勤め人たちが集まって課外活動的に開発母体を立ち上げて開発した1kg級キューブサット「リーマンサット」というのもあって、2018年と2021年にそれぞれ1機ずつ宇宙に送り込み、運用を行った実績がある。 自分が宇宙分野のウオッチングを始めた1980年代末、日本には衛星を打ち上げられるロケットを開発した経験がある会社は2つしかなかった。液体推進剤を使用する液体ロケットを造る三菱重工業と、固体推進剤を使う固体ロケットを開発する日産自動車(現IHIエアロスペース)だ。 衛星を造る会社といえば、三菱電機、日本電気、東芝の3社だけで、「衛星3社」と呼ばれていた。 これら5社の顧客はすべて日本政府だった。具体的には特殊法人の宇宙開発事業団(NASDA)と国公立大学の共同利用機関である文部省(当時)・宇宙科学研究所(ISAS)が顧客のすべてだった(※)。 (※NASDA、ISASは2003年に航空宇宙技術研究所=NALと統合され、宇宙航空研究開発機構=JAXAとなった) 国は政策的に宇宙産業を輸出産業のひとつとするつもりで20年かけて保護・育成してきたが、米国(以下、アメリカ)からクレームが付き、1989年の日米通商交渉、通称「スーパー301条」の合意で、産業保護を放棄した(「技術者が『経営者の帽子』を押し付けられるとき」)。 その結果、1990年代の日本の宇宙産業は、本当にひどいことになった。当時の日本の宇宙産業は。自立した産業になるのにあと少しというところで政府支援がなくなったものだから、海外メーカーと対抗できる実力が足りなかった。衛星通信会社に代表される国内の顧客は、海外の衛星メーカーから衛星を買い、海外の打ち上げ手段で打ち上げた。その方が安価かつ高性能、サービスも良かったのだから当然そうなる。