小説とマンガが育てた日本のロケットベンチャーラッシュ
有人宇宙分野は、はっきり書くなら1980年以降、日本政府はアメリカに依存し続け、独自有人宇宙活動からは逃げ回ってここまで来てしまった。 その間にたゆみなく継続的な投資を続けた中国は、独自の有人宇宙船を保有し、独自の有人宇宙ステーションを運用し、2030年代には独自の有人月探査を行うかというところまで来た。それどころか2026年にはインドが独自の有人宇宙船による有人打ち上げを予定している。2030年代半ばには有人宇宙ステーションを建設し、2040年代には有人月着陸を行う構想も発表した。 が、ここに来てやっと日本としての有人宇宙活動をどう進めるべきかが俎上(そじょう)に上がり、今、内閣府で宇宙活動法という法律の改正が議論されている。そこでは、有人宇宙活動でも民間の活力をどのように生かすかという議論もされている。 さて、ここまで読んできた皆様に質問だ。 ここまでの日本の宇宙分野の現状を踏まえた上で、日本独自の有人宇宙活動に向けて、どうすれば民間の活力を生かすことになると思われるだろうか。 私思うに、それは「生き物、それも脊椎動物、できれば哺乳類を、簡単な手続きで合法的に弾道飛行で打ち上げて回収できるような制度の整備」だ。 ロケットと衛星で見てきたように、民間には「実物を実際につくって運用する。それも小さくつくって何度も失敗しながら、じりじりとでも前に進むことができる環境」が必要だ。 そこで、「有人宇宙活動につながる、もっとも小さくてしょぼくて簡単なことはなにか」と考えると、それは「生き物、それも脊椎動物、できれば哺乳類を、簡単な手続きで合法的に弾道飛行(サブオービタル飛行という)で打ち上げて回収すること」なのである。 ●人材の蓄積をまず考えよう いきなり人間を地球周回軌道に打ち上げられるなどと考えてはいけない。その前に地球を周回しなくとも宇宙空間まで上って、落ちてくるサブオービタル飛行で、人ではない生き物を打ち上げる必要がある。 生き物は、最初の一歩は、昆虫でもエビでもカニでも魚でもイモリでもトカゲでも構わないが、できれば哺乳類、最低でもネズミぐらいを打ち上げるべきだろう。民間の力を生かすならば、そのような試みを高頻度で実施し、まずは有人宇宙技術の一番の初歩を「自分の手を動かして体験した」ことのある人材を育成していくところから始めるべきだ。そうしないと、どんなに国が予算を付けても後が続かない恐れがある。これは、三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)の失敗を繰り返さないための方策でもある(連載「『飛べないMRJ』から考える日本の航空産業史」)。 ところが、だ。 この宇宙活動法の見直しは、内閣府の「宇宙政策委員会 基本政策部会 宇宙活動法の見直しに関する小委員会」というところで議論している。議論は非公開だが資料と議事録は公開されている。 それを読むと、どうも霞ヶ関としては弾道飛行打ち上げに免許制や許可制を導入し、国による規制を強化しようとしているようなのである(例えば、この第3回の資料はそのように読める )。 「新規事業の予見可能性を高めつつ研究開発活動や事業投資を加速していくことが非常に重要」と書いており、資料を読むに「日本より進んでいる諸外国も免許制や許可制を導入しているので、日本でも」ということらしいのだが、ちょっと待て。 世界ではアメリカを中心に、サブオービタルの有人飛行が民間で事業として行われるようになっている。日本でも「事業化を早期に実現」というのは、そのあたりの状況を念頭に置いてのものだろう。 だが、人材の蓄積がないのに、いきなり研究活動や事業投資を加速できるわけがない。まずは、大学や学生サークル、そして宇宙ベンチャーが、どんどん「しょぼくて小さい」サブオービタル打ち上げを行って、有人宇宙飛行に向けた基礎の基礎を蓄積していく必要がある。