コーヒー牛乳「ミルクの束縛」が異例ヒット ローカルメーカーが目指す酪農の盛り上げ
千葉県の乳業メーカー、古谷乳業(千葉市)のコーヒー牛乳「ミルクの束縛」が異例のヒットを飛ばしている。その75%は生乳で、あとは砂糖とコーヒーだけ。昨年10月に県内で販売開始後、エリアを徐々に拡大し、製造数は140万本を突破。今後は全国展開を目指している。地方の老舗メーカーがヒット商品を生んだ裏には、酪農家を苦境から救いたいという熱意があった。 【写真をもっとみる】古谷乳業のコーヒー牛乳「ミルクの束縛」とヨーグルトシリーズの「冬の入道雲」 ■新鮮なミルク風味 「飲んでいただくと、『ミルクの束縛』という名前の意味が分かると思います」 商品開発に携わった同社の事業開発部長、金谷敏さんに促され、ひと口。甘みが口の中に広がった後、新鮮なミルクの風味を存分に感じることができた。 砂糖は甘いが後味を残さずすっと消え、ミルクの味わいがやってくる。コーヒー風味でありながら、牛乳本来の魅力に「束縛」されるという、名前そのものの味。 「コーヒー豆も、まろやかさを重視して選んでいます。キャラメルのような風味で、懐かしさも感じてもらえると思います」との言葉から、味わいへの自信がのぞく。 ■苦境の酪農業界 ミルクの束縛の開発の背景には、苦境が続く「酪農業界を盛り上げたい」との思いがあるという。 特に顕著なのが生産コスト増だ。農林水産省の畜産物生産費統計によると、令和4年の乳牛1頭当たりの生産(飼育)費は100万8902円。3年より14・1%増えた。生乳100キロ当たりに換算すると、3年と比べ9・8%のコストアップとなった。 「餌代や光熱費、燃料代や設備の修理代など、あらゆるものが上がっていて厳しい状況」。古谷乳業に生乳を供給する宇畑牧場(同県旭市)の代表、宇畑耕作さんはため息をつく。 もう一つの課題は、少子化などの影響で、牛乳の消費量が減少傾向にあることだ。業界団体のJミルクの資料によると、平成5年度に年間33・4リットルだった1人当たりの消費量は、令和5年度に24・8リットルと、30年で3割近く減っている。 この状況に一矢を報いるため、嗜好(しこう)性が強く、付加価値の高い新たな「ミルクコーヒー」を開発すれば―。令和4年、金谷さんらはそう思い立ち、取り組みを開始した。