《見捨てられた老人ホーム》東京・足立区で「人手が回らず餓死者が…」「お風呂も入れられない」給与未払いに社長は雲隠れ…元職員が明かした“現場丸投げ運営”の実態
「今思うと、3月末に給料が支払われないことがあって……。あれが始まりだったのかもしれません」──高齢化が進む日本において、介護職の重要性が高まっている。しかし、介護業界では慢性的な人手不足が課題となっており、政府は介護職の待遇改善などに動き出している。厚生労働省の推計によると、2040年度までに必要な介護職員の数は272万人程度。業界は外国人やITの活用に取り組んでいるが、先行き厳しい状況が続いている。そんな介護の現場で、悲惨な出来事が起きていた──。【前後編の前編。後編を読む】 【写真】“現場任せ”の運営と慢性的な人手不足により荒れていた介護現場。そんななか起きてしまった”10万円盗難事件”について職員らがやり取りしているスクリーンショット
報道によると、東京都足立区にある「住宅型有料老人ホーム」で、多くの入居者を残したまま職員の“一斉退職”が起きていた。テレビ局関係者が語る。 「この問題を取り上げたのは報道番組『Live News イット!』(フジテレビ系)です。9月下旬、足立区のある老人ホームで『職員が2ヶ月の間に30人ほど辞めている』との情報提供があり、特集が組まれました。“一斉退職”は9月30日の“給料の未払い”がきっかけで、運営会社の社長も音信不通の状態が続いているそう。90人近くの入居者が施設に残され、数少ない職員がボランティア状態で運営にあたっていましたが、都と区の支援もあり、10月10日までに残っていた入居者すべての転居先が無事に決まりました。 また千葉県内の関連施設でも同じように給料の未払いがあり、9月末から10月にかけて職員が一斉に退職したといいます。こちらの施設は現在、千葉市の保健福祉局が支援を行っており、残された入居者の移転先を探している状態です」(テレビ局関係者) なぜ、このような事態になってしまったのか。「無責任な運営は今に始まったことではないと思います」と語るのは元職員のAさんだ。
“現場任せ”の運営と慢性的な人手不足に悩まされていた施設
「働き始めたのは今年1月ころですが、昨年10月にオープンしてわずか3ヶ月ですでに10人以上の退職者がいたと先輩から聞きました。お給料はどちらかというと都内では結構いいほうで、お金が理由で辞めたわけではないと思います。 まず驚いたのが、圧倒的に職員が足りないこと。当時50~60人ほど利用者さんがいたと記憶していますが、それに対して日勤者がひとりということもありました。施設は3階建てで、そのくらいの利用者数だと通常であれば少なくとも7~8人の日勤者が必要なんですよ。もう全然手が回らなくて……利用者さんのオムツはみんな汚いままだし、1月はひと月お風呂に入れてあげることもできなかった」 慢性的に人手不足だった施設。施設の居室数は187床あり、オープン当初から混乱続きだったのだろう。Aさんは現場で働く身として、このように職場の状況を回想する。 「明らかに体制が整っていない状況でした。とにかく全てが“現場丸投げ”状態で、現場経験が豊富でマネジメントができるような人間も施設にはいない。私が入った時は原則、利用者40人に対して最低1人は配置しなければならないサ責(サービス提供責任者:訪問介護サービスを提供するうえでの責任者のこと) すらおらず、2月になってからようやく1人採用されました。当時、施設長の肩書きをもつ男性もいたのですが『現場は初めてなんだ』と話していてびっくりしましたよ」 Aさんは続ける。 「通常なら利用者さんへの投薬も、どの職員が誰にあげるかなど細かいルールづくりがあります。しかい、この施設ではそういったルールもなく、誤薬や飲ませ忘れもよく起こっていた。また『事故報告書』といって、介護中の事故などを上司に知らせるものがあったのですが、これも形式的でいい加減な運用だった。本来は事故の再発や隠ぺいを防ぐため、現場の職員が書いて上司の判子をもらい、戻ってきたものを保管しておくべき書類ですが、この施設では職員が事故の内容を記入したうえでファイリングするのみ でした。経営サイドの方が現場に来ることもまずなかったので、施設がどういう状況か知るよしもなかったでしょうね」
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