「子役時代の輝きを失っていた」大物俳優との再会が転機に…真田広之64歳がアメリカで快挙を成し遂げるまで〈日本人初ゴールデン・グローブ主演男優賞〉
真田が語っていた、自身を突き動かすエネルギー
真田はかつて自身を突き動かす《エネルギーの三要素は、プレッシャーとコンプレックスとレジスタンスだ》と語っていたことがある(『週刊朝日』1999年4月30日号)。シェイクスピア・カンパニーへの挑戦などでは、プレッシャーを感じながらも、それがいい意味でモチベーションになっていたのだろう。また、コンプレックスは彼に言わせると子供のころから色々とあり、たとえば背が小さいというコンプレックスから、武道で大きい人に勝つにはどうしたらいいかとか、スクリーンに映ったときにどうやって大きく見せようかとか考えるようになったという。 レジスタンスも重要な要素である。とりわけレッテルを貼られることには抵抗感が強く、17歳で再デビューするに際し「子役あがりは大成しない」というジンクスを覆そうと誓って以来、それをはがすことを生きがいのように感じてきた。アクションスターとして人気を集めていたころには、そのイメージを崩すべく、コメディタッチのミュージカル『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(1984年)で三枚目の役を演じた。
もともとNHKの大河ドラマが好きではなかったにもかかわらず、1991年の『太平記』に主演したのも、その役が後醍醐天皇に抗ったがゆえ長らく逆賊とされてきた足利尊氏だったからだ(『婦人公論』1992年12月号)。真田からすれば、大河ドラマのように世間でイメージが固定されているものはすべて抗うべき対象であった。 それだけに、真田が『ラスト サムライ』に出演時、ハリウッド映画における日本人や日本文化への誤解を正そうと、これを最後に干されてもいいと覚悟するくらいアメリカ側のスタッフに口を出したのは自然な流れであった。それでも現場で揉めることはなく、やがてスタッフのほうから教えを請うてくるまでになり、ついには“ミスター・スーパーヴァイザー”の称号まで与えられたという。
『SHOGUN 将軍』は日本の映像コンテンツを変える契機となるか
その後も真田の孤軍奮闘は続く。赤穂浪士をモチーフにした『47RONIN』(2013年)では、日本人の役には全員日本人俳優を使うことを出演の条件とするも受け容れられず、興行的にも厳しい結果となったが、それでも彼は《日本が題材の映画がハリウッドで、大予算で作られるということ自体は1つの布石になったと思います》と顧みる(『日経エンタテインメント!』2024年5月号)。同年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』の撮影現場ではスタッフからよく意見を求められたという。そのころには、ハリウッドのほかの現場でも日本文化について日本人に訊くという習慣が定着してきたと、真田は実感し始めていた。 『SHOGUN 将軍』はこうして彼が20年にわたって地道に積み上げてきたことの集大成と位置づけられる。原作であるジェームズ・クラベルの小説は1980年にもアメリカでドラマ化され、ちょうど日本経済の伸張がアメリカを脅かすまでになっていた時期とあって、日本への関心の高さから話題をさらった。しかし、そこには日本に対する誤解も多分に含まれていた。だからこそ今回、日本人である真田がプロデューサーも兼任して、同作をハリウッドでリメイクしたことには大いに意義がある。 一方で、真田は海外で活動するなかで、日本の現状を変えたいとも常に考えてきた。10年ほど前には、日本のテレビドラマが視聴者のターゲットを国内市場に絞り込んでいるという現状を指摘した上で、《日本の映画やテレビ番組が海外に広がってほしいと願っています。そのために、僕は米国で吸収してその種まきをしたい》と語っている(『週刊ダイヤモンド』2012年2月18日号)。『SHOGUN 将軍』のエミー賞受賞は、内に向きがちな日本の映画やテレビ業界を変える契機となるのだろうか。 真田自身は、レッテルはがしを生きがいのように感じてきただけに、今回の受賞を機に「世界のサナダ」「ハリウッド俳優」などと呼ばれるのを良しとしないだろう。今月12日に64歳となる彼が、すでに制作が決まっている『SHOGUN 将軍』の続編とは別に、このあと新たにどんな展開を考えているのか、気になるところだ。
近藤 正高
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