認知症=徘徊のイメージが覆る!? 物理的に開かれたデイホームが“地域の人が交差する”場所になった理由
――たしかに。先ほどお会いしたここに住まわれている方は、加藤さんの名前は覚えていないのに、「どこかで会ったわね」とニコニコお話されていました。 いつもこんな服装のお兄さんとか、「この人は大丈夫。この人はいい人だ」という感情で覚えているんです。だから、ここに安心していられるんですよ。 ■■「関係が近すぎる家族には言えない」から、個人の生活習慣や趣味嗜好まで把握する ――「あおいけあ」と他の施設の違いはどこだとお考えですか? 僕たちはアセスメント(=利用者の困りごとや身体状況、家族構成などの情報)を細かくとっています。一般的に、アセスメントには「何ができない」みたいな弱点ばかりが書いてある。でもうちの場合は、どこで生まれて、どんな仕事をしてきて、どこを散歩していて、何が趣味で、何に誇りを持っていて、最後は誰とどこでどう過ごしたいかまで書いてあります。多くの場合、困りごとを聞くと家族の困りごとばかりになってしまいますが、うちではケアプランの目標も本人の言葉で書いてあります。生活の中のこだわり、できること、支援してほしいことなど利用者1人1人のプランがあって、うちのスタッフはみんなそれが頭に入っています。 ――そもそも本人が何に困っていて、どういう希望を持っているのか本音を聞き出すことに苦労する家族も多いと思います。我が家でも、父に何に困っているのか、どうしてほしいのか聞いてもはぐらかされてばかりで困っています。 家族には言わないですよ。関係が近すぎるんです。子どもから見てもそうでしょう。他人だったらそんなに気にならないことも、それまで尊敬の対象だった親が突然粗相をしてしまうと、どうしていいかわからなくなる。 ――たしかに、私たちも現状を受け止めきれていないし、親は子どもに弱みを話すことに抵抗があるでしょうね。考えてみれば当然です。 関係性が変わると情報も変わってきます。体を触れる職業だと意外に話してしまうことがあって、ここではお風呂がそれですね。入浴の時に背中を流してもらいながら話していると「実はうちの息子がね……」とぽろぽろしゃべってくれるんですよ。 ――丁寧に関係性を作っていって、それぞれの個性に合ったケアをされているから、皆さん生き生きとされているんですね。 去年までは敷地内で駄菓子屋さんをやっていたんですけど、それは東京で駄菓子屋さんをやっていたおばあちゃんがいたから。去年100歳で亡くなったので、店は閉めました。アセスメントに基づかないで、認知症の方が駄菓子屋さんをやっていたら素敵だからと続けるのは違うかな、というのがあって。 ――ケアする側の自己満足になるだけの可能性がありますもんね。ここは食事にもこだわっていると伺いました。 日本食の板前さんがいて、加工品、調味料は使わずに、毎日お出汁を引いて作ってくれるので、皆さんはしっかりとごはんを食べますよ。しっかりタンパク質を摂って、しっかり動いているので、筋力もつきます。うちを知っているメディカルソーシャルワーカーの人は、「ここに3週間、泊まりませんか」と勧めるぐらいです。車椅子だった人も、3週間でだいたい歩けるようになっちゃうので。うちに今いる利用者さんにも、最初はほとんど歩けなかった人もいます。