認知症=徘徊のイメージが覆る!? 物理的に開かれたデイホームが“地域の人が交差する”場所になった理由
――「小規模多機能型居宅介護」というのはどのような場所ですか? 通うことができて、泊まることもできて、訪問することもできる地域密着型のサービスです。ケアマネージャーもいるので、プランをその場で組み直したりもできます。 ――通いの「デイサービス」と、泊まれる「ショートステイ」と、ヘルパーさんの「訪問介護」がひとつになったような場所なんですね。 例えばデイサービスだと、利用日に風邪を引いていたら利用中止になって、家族が会社を休んだりして家で見ることになりますけど、うちには内部にケアマネージャーがいるので、その場でその日のプランを変更して、「今日はお粥を持って訪問しよう」とか、「夜、どうにもならなかったら泊まろう」という選択ができます。利用日じゃない日に「私の昼飯あるかい?」って来ちゃうこともあるし、いつも夕方に迎えにくる息子さんに急に会議が入ったら、夕飯を食べて迎えにくる時間までいてもらうこともできます。 ――とても柔軟で、ありがたい場所ですね。でも、デイサービスなどに比べると、メジャーではないイメージです。 小規模多機能型居宅介護が制度化されたのは2006年なんです。僕は25歳だった2001年にグループホームとデイサービスから始めたんですが、これでは全然支えられないなと全国の先輩たちのところをいろいろ見学しました。そのときに、地域の家や商店街のスペースを使って、その地域のおじいちゃんおばあちゃんの面倒を見ている宅老所(※)を見て、自由度が高くていいな、これがやりたいなと思ったんです。ただ、宅老所は介護保険外なので、費用的に厳しかった。それが制度化されて介護保険が適用されたのが小規模多機能型居宅介護で、僕は制度化された翌年から始めました。 ※民間独自の福祉サービスを提供している施設のこと。デイホームともいう
――実際に利用者の方が施設で過ごされているところにお邪魔してみて、皆さんとても穏やかで、それぞれが好きに過ごされているのが印象的でした。 10時からレクリエーションで12時からごはん……みたいなスケジュールで動いているわけではまったくなく、ここに来ている間に髪の毛を切りに行く人もいれば、1人暮らしの認知症の方だと病院に行く人もいます。ごはんの時間になると、利用者もスタッフも一緒になってみんなで準備をして食べます。 ――同じ敷地内には認知症の方が住むグループホームもありますが、こちらの特徴も教えてください。 まず、「バリアアリー(=日常的な障害物(バリア)を意図的に配置した施設や環境)」になっています。玄関にあえて10センチの段差を作ることで、認知症の方はここで靴を履き替えるんだなとわかる。バリアフリーだと、そのまま裸足で出ていってしまう可能性があるんです。10センチだったら車椅子でも乗り越えられる。 ――時間や場所、人の判断が曖昧になる見当識障害は、認知症の初期から現れやすい症状ですもんね。皆さんのお部屋にそれぞれ個性があるのも同じ理由ですか? 皆さん、自分の持ち込み家具なんです。見当識障害(※)がある人が朝起きたときに見慣れない場所だと、毎朝「ここどこ!?」と大パニックを起こす。だからここではご自身の使い慣れた家具を置くことにしています。スタッフがみんな私服で仕事をしているのもそうです。みんな同じ制服を着て、同じ髪型をしていたら、人物の見当識障害で人がわからなくて困ってる人はパニックですよ。 ※認知症の中核症状のひとつで、時間や場所など、自分が置かれている状況を正確に認識できなくなる