認知症=徘徊のイメージが覆る!? 物理的に開かれたデイホームが“地域の人が交差する”場所になった理由
――病院でも栄養管理はされていると思いますが、一方で、年配の方が入院して寝たきりでいたり、車椅子を利用することで足腰が弱るという話も聞きます。 入院関連障害と言うんですが、病院の食事はカロリーもタンパク質も足りていないし、ずっと寝ていると筋肉が落ちちゃうんですよ。寝たきりや車椅子に1日中座っているような状態で、歩けるようになるとは思いませんよね。 ■■認知症の人が“地域で役立つ人”になることが前提の地域交流 「認知症になったことを近所に知られなくない」と当たり前のように親が言いだしたときに、想像以上の認知症への偏見に戸惑いました。人との会話や関わりは認知機能の維持には必須。なのに、まずは本人たちが持つ偏見が邪魔をして、住み慣れた地域にいても、精神的な孤立を感じることになってしまう。「地域とつながる」という簡単そうで難しい課題も、「あおいけあ」はクリアしていました。 ――「あおいけあ」の特徴に、地域とのつながりというのもあります。日本の高齢化に向けて「地域共生社会」を厚労省は掲げていますが、実現に苦労している自治体も多いように感じます。 うちではまず、壁を壊しました。道路に面したところにどんぐりの木と子どもが木登りできる木を植えたら、子どもたちがどんぐりを拾いながら、ここ通れそうだなと入ってきました。駅へのショートカットになるので、そのうちサラリーマンも通るようになりました。 ――だから壁がないんですね(笑)。物理的に開かれた場にした。 建物の一部を書道教室に貸していて、教室が開かれる日は子どもたちやお迎えのお父さんお母さんで交流人口が増えますし、コロナ前は、うちの食堂に地域の方がご飯を食べに来ていいようになっていました。 ――自然と交流が生まれる環境になっているんですね。地域の方も交えたイベントもやっていると伺いました。 介護保険は自立支援なので、お年寄りを楽しませるだけじゃだめなんです。なので、地域の方たちに楽しんでもらえるイベントをやっています。その日が楽しかったねというハピネスじゃなくて、“ウェルビーイング”じゃないといけないんです。餅つきをやりましょうとなったら、会議からおじいちゃんおばあちゃんが参加して、「寒い時期だからけんちん汁も出したら?」という意見が通ったら、畑作りから始まって、けんちん汁に入れる野菜やお餅に入れるあずきを栽培して 、それを炊いてあんころ餅にして地域の方に食べてもらったりとか。 ――「介護保険は自立支援だから」というのはどういう意味ですか? 介護保険法の第2条第2項に「保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われる」と書いてある。要するに、「おじいちゃん、おばあちゃんが元気になる。もしくは現状を維持できるサービスを提供しなかったら、その事業所は介護保険のお金をもらえないですよ」って書いてあるんです。でも、面倒を見てあげることが仕事だと思い込んじゃってる人が多い。 ――介護施設というのは、面倒を見てくれる場所だと思っていました。 それは今から60年以上前の「老人福祉法」という法律です。2000年から今の「介護保険法」に変わっています。 ――なるほど。たしかに認知症に限らず、面倒を見てもらったり、弱者扱いされることにほとんどの人が抵抗ありますよね。 介護や福祉ってすごく大事だけど、“世話になりたい”という人は少ないでしょう。 だから使わなくてはいけなくなったときでも、「社会的に活動している」「みんなから感謝されている」と感じながら生活できることはすごく大事なんです。 ――認知症になっても、できることはたくさんありますもんね。それをできないと決めつけて行動を制限することで精神状態まで病んでしまう。 ここではボランテアさんはほぼ募集してないんですけど、ボランティアって日本だと“やってあげる”になっちゃうじゃないですか。でも、ここではおばあちゃんたちがいろんなことができるから、やることを取っちゃうんですよ(笑)。こういう環境で、自然とうちの利用者さんと地域の方が交流して、おばあちゃんたちが茶碗を洗ったり子供の面倒を見ている姿を見たり、子どもたちなんかは「同じことを2回ぐらい言うけど、別に普通のおばあちゃんだな」と思って付き合っているわけです。その子たちが大人になった時に、年取ったらこんな感じだよねって自然に思ってくれるのが認知症ケアであって、その環境を作っていくための装置として小規模多機能やグループホームがあるんです。