三鷹・よもぎBOOKS 絵本や「好き」を集めていく。どこにも生える万能薬のように(連載「本屋は生きている」)
各地のこだわりの書店を訪ねる連載「本屋は生きている」。今回は東京都三鷹市の「よもぎBOOKS」へ。マンションの2階にある絵本中心のお店はオープンして7年。「絵本を立体的に表現して販売する」場所づくりを目指し、販売の傍ら自ら絵本制作も手がけています。 【写真】「よもぎ」は漢字で何と書く? 「よもぎBOOKS」店内の様子はこちら
世の中には曖昧なほうがいいことはたくさんある。だが、時には自分の立ち位置を明らかにした方がいいこともある。特に差別や戦争、暴力などには強くNOを表明したいし、実際にそうしている人を、私はリスペクトする。 そんな「尊敬する1人」が手掛けるレストランがある三鷹には、最近ちょくちょく通っている。でもごはんを食べて直帰、ということばかりだったので、たまには散策してみよう。だって三鷹には以前から気になっていた、よもぎBOOKSがあるから。 JR三鷹駅から歩くこと約10分。どう見てもマンションだけど、1・2階部分は店舗がいろいろ入っている「三鷹プラーザ」の2階に、よもぎBOOKSはある。同じ建物の中にはカフェを併設するインテリアセレクトショップ、山岳グッズの店なども並んでいて、眺めるだけでもワクワクする。 そんな一角に「蓬」と丸囲みの大きな字で書かれた扉があり、あそこだ! とすぐにわかる。足を踏み入れると、店主の辰巳末由さんが迎えてくれた。
挫折を経て、本と生きたい自分に気づく
辰巳さんは、山梨県の富士山のふもとにある街で育った。自分の内に存在する、人間の生と死への思いを意識することが多い子どもだったと、辰巳さんは振り返る。 「自分の可能性を探ってみたいと気持ちがあったし、その頃は心理職を目指していました。だから大学も心理学部を選びました。ただ若かったこともあり、直線的に物事を考えがちでした」 大学に進学した辰巳さんは、心理の専門職に就くべく大学院を目指した。しかし、現実は厳しかった。 「心を救う業界に拒絶されたことで、『もう私は救われないのではないか』という思いに、心を覆いつくされてしまって。人と会うのもイヤで、テレビを見ることもできなくて。心理学の本は読めなかったのですが、手に取ることができた哲学書や純文学などを読んでいくうちに、本と生きていきたいと思うようになりました」 自分は誰にも何にもなれない。当時はそんな思いを募らせながらも、本屋で働こうという思いは日に日に強くなっていった。地元で1年間働いてお金を貯め、それを手に学生時代から好きだったジュンク堂の面接に向かった。それを機にオンライン注文やホームページ作りなど、ウェブ担当スタッフの一員となった。 「働き始めてしばらくして、大学時代の知人と結婚したのですが、第1子の妊娠直前に東日本大震災が起きたんです。あの頃は余震がとにかく多かったので、家に子どもを置いて出社する未来に不安を感じるようになりました」 会社も理解を示してくれたことで、自宅で作業できるようになった。しかし2015年になると、部署ごと解体されてしまうことが決まった。 「2人目も生まれて、店頭に立って働くことは難しいなと思いました。だから人文書をメインにした自分の本屋を持ちたいと、行く先々で口にしていたら、2016年に地元にあるギャラリーカフェに、セレクト棚を置かせてもらうことになって。同じタイミングで、オンライン書店を立ち上げました」