三鷹・よもぎBOOKS 絵本や「好き」を集めていく。どこにも生える万能薬のように(連載「本屋は生きている」)
コロナを乗り切ったオンライン販売
当面はオンラインと棚借りでいこうと思っていた2016年の秋ごろ、親しくしていたカフェの店長に「近くが空いてるよ」と言われた。イメージしていた空間に近く、同じ建物内に人が集まる場所がいくつもある。「ここで言い訳して本屋をやらなかったら、今後どこにいってもやれないだろう」と思い、すぐに心を決めた。界隈はファミリー層も多く、人文よりも絵本の方が合うのではないか。子どもを通じていろいろ学んできた絵本をメインにしようと決め、開店準備に取りかかった。 「家族や友人たちの手で内装をしましたが、なかなか大変で。でも『ここで言い訳して逃げたら、どこに行っても逃げる自分になる』と思いながら、最後までやりました」 「この場所は以前、古道具屋の倉庫として使われていたのですが、もともとは建築事務所で。だから今使っているレジ奥の棚など、リメイクして活用しているものもあります。家族や友人総出で頑張ったら2、3カ月ぐらいで内装が完成しました。でも什器は開店してから少しずつ増やしました」 なんと順調な滑り出し! と言いたいところだが、オープン当初は棚の多さと在庫が比例しない時期もあったと笑った。現在の在庫は1000冊ほどで、新刊と古書の割合は8:2といったところ。古書は基本的には買い取ったものを置いているが、店の雰囲気を知った上で持ってきてくれる人がほとんどだという。 「なんとか軌道に乗り始めた3年目に、コロナ禍がやってきました。でもオンライン販売を続けていたので、大きな影響はありませんでした。子どもは中学1年生と小学4年生になりましたが、家が近いので、学校帰りに『鍵忘れた』なんて時に寄ることもありますね」
手を動かし続けることで心が満たされる
オープン当初の売り上げは絵本が大多数を占めていたけれど、今は絵本以外の割合が増えてきていると語る。だからなのか、これまでは子どもを連れた女性が多かったけれど、最近は男性が1人でやってきて、じっと棚を眺めることも増えたそうだ。また、オープン時から続けてきたギャラリースペース目当てで訪れる人も、かなりの割合だ。 実は私もその一人で、10月に開催されていた、「収集百貨 溜めっこ展」が見たかったのだ。4人のメンバーからなる収集百貨は、その名の通り、これまでに収集してきたコレクションをZINEで披露している。 バナナやチーズのシール、封筒の裏側、銀行の貯金箱やお菓子の缶などなど、どこの家にも必ずあるのに、ほとんどが見向きもせず捨ててしまう。そんなモノ達を収集し尽くした写真が、壁をぐるりと飾っている。もちろん現ブツも並んでいる。……なんで櫛の柄にイモムシを描く? なんでトマトケースにゆるキャラを描く? 改めて目の前に突きつけられると笑いしか出てこないものばかりで、思わず見入ってしまう。でも来月はまた違う展示が予定されているので、雰囲気ががらりと変わることだろう。 この先どうしようと思いながらも7年間続けた今は、絵本を立体的に表現し販売する場所にできたらと考えているという。 「あとは自分でも本を作りたいと考えていて。絵本作家の松村真依子さんと一緒に、小川未明の『野ばら』を絵本にしたんです。編集と丁合、製本は私が担当しました」 隣り合う大きな国と小さな国。それぞれの国から国境に派遣された2人の兵士は、互いに心を通わせていく。しかし戦争を始めたことで、2人は敵同士になってしまって――。老人と青年、2つの国をそれぞれ藍色と朱色で描いていて、約100年前に生まれ何度か読んだ物語なのに、新鮮な気持ちで手に取ることができる。次作はまだ具体的には決まっていないそうだけれど、きっとふんわりと優しい本ができあがるに違いない。 でも本屋を続けて子どもの面倒も見て本も作っては、なかなか毎日ハードモードなのでは? 「夏葉社の島田潤一郎さん が、『仕事とは手を動かすことだ』と著書で書いていたんです。まさにその通りだと思うし、私も手を動かすことで、心が満たされるんですよね」