三鷹・よもぎBOOKS 絵本や「好き」を集めていく。どこにも生える万能薬のように(連載「本屋は生きている」)
自分の分身のような「よもぎ」
辰巳さんの言葉にうなずきながら、おなじみの質問をしそびれていたことに気がついた。あの、なんでよもぎBOOKSなんですか? 「実はパキっとした理由はないんですけど……。よもぎってどこの空き地にも生えているというか、その辺にあるものですよね。子どもの頃、祖母が道端のよもぎを摘んでお団子を作ってくれたことがあって。その後、食べるだけでなくお灸の原料や薬草になるすごい植物だということも知って、ハンドルネームによく使ってたんですよ。だから今回もあまり悩まず、すぐに店名が決まりました。7年以上店を続けても恥ずかしくならないから、この名前にして良かったと思います」 やっぱり、曖昧にしておいた方が良いものはこの世にたくさんあると思う。だけど好きを極めたモノを集めまくったり、好きを追求した場所を作ったりすることで、こうして誰かが楽しくなれることもある。何が好きで何が嫌いは、曖昧にせずハッキリ見極めておこう。その方が絶対、自分自身も楽しくいられるはずだから。手作りの空間の中でちょっとはにかんだ笑顔で語る辰巳さんを見ていて、そんな気持ちがあふれ出てきた。
辰巳さんが選ぶ、よもぎ餅とともに楽しみたい3冊
●『のほほんと暮らす』西尾勝彦(七月堂) 奈良の詩人・西尾勝彦さんによる実用的な詩集。情報が氾濫し、猛スピードで移り変わる現代を疲弊しながら生きる人への処方箋のような一冊。のほほんするために必要なことが載っていると同時にのほほんし続けるのがいかに難しいことであるかも教えてくれる。 ●『最初の質問』長田弘、いせひでこ(講談社) 詩人であった故・長田弘さんと画家いせひでこさんによる詩集のような絵本。本を開くたび「今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。」の一言目にどきっとする。今日ははたして空を見上げただろうか、と。 ●『たいせつなこと』マーガレット・ワイズ・ブラウン、レナード・ワイズガード、うちだややこ(フレーベル館) 絵本を収集していた20代の頃、自分のために買った本。ややこしく考えてしまいがちな時、頭の中をシンプルに戻してくれるし、どんな自分でも抱きとめてくれる一冊。マーガレット・ワイズ・ブラウンとレナード・ワイズガードのコンビの絵本はほかにも素敵なものが多い。 (文・写真:朴順梨)
朝日新聞社(好書好日)