「漏らすリスクが高すぎる」は本当か? 日本初の内臓脂肪減少薬「アライ」、“粗相”のリスクを開発者に聞いた
服用した際の特有の事象として「便や油が漏れる」といった副作用の報告も
新年を迎え、1年の抱負として「今年こそはダイエットを!」と意気込んでいる人も多いのではないだろうか。お腹の脂肪に悩む人への朗報として、昨年大正製薬から発売されたのが、日本初となる内臓脂肪減少薬「アライ」。ニュースやCMでも盛んに報じられているが、服用した際の特有の事象として「便や油が漏れる」といった副作用も報告されており、ネット上では「漏らすリスクが高すぎる」「人間やめてまで痩せたくない」といった声も上がっている。実際のところ、脂肪減少の効果や副作用のリスクはどの程度あるのか。大正製薬の開発担当者に話を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔) 【動画】なぜ内臓脂肪が減るの? アライのメカニズムを解説した動画 昨年発売された内臓脂肪減少薬「アライ」は、厚生労働省から内臓脂肪及び腹囲の減少が認められた日本で唯一の医薬品。いわゆる市販薬として、薬剤師がいる薬局であれば処方箋がなくとも購入が可能な要指導医薬品(OTC)に分類される。 「健康食品などの機能性表示食品でダイエット効果をうたうものは多々ありますが、アライは総合風邪薬や頭痛薬のように、治療のための効果が認められた医薬品。内臓脂肪の増加には自覚症状がありませんが、生活習慣病の発症に密接に関与する内臓脂肪の減少を図ることで、内臓脂肪に起因する様々な疾患を予防していくという位置づけです。 食事中に含まれる脂肪は、膵臓(すいぞう)から分泌される脂肪分解酵素リパーゼによって、脂肪酸とグリセロールに分解・消化され、腸から吸収されます。アライを服用すると、有効成分オルリスタットがリパーゼと結合し不活性化、脂肪の消化を阻害します。その結果、脂肪が吸収されることなく、そのまま便などとして排出されるのです。アライを1日3回服用することで、摂取した脂肪の約25%を排出することが期待できます」 通常、薬局で市販される薬は、医療現場で医療用医薬品としての実践を経てから発売となる場合がほとんどだが、アライは医療用医薬品としての使用実績はなく市販薬の認定を受けた「ダイレクトOTC」でもある。なぜダイレクトOTCとしての認可に至ったのか。 「肥満に悩む人に広く薬を届けたかったということに尽きます。OTCと医療用医薬品では審査や認可の過程が異なり、医療用では薬代として一般的に3割が自己負担、残りの7割が社会保険料を主な財源とする医療保険から充当されるため、薬の値段を決める審査が厳しい。医療用での承認を目指した他社の競合品が『医療保険上の説明が十分になされていない、数%の体重を減らす薬に医療保険を適応するのか』という議論の末、開発を断念したという経緯もありました。一方、処方箋のいらないOTCは医師の管理下ではなく、生活者の自己判断で使用されるため、安全性や適正使用の面でよりハードルが高い。日本肥満学会との1年に及ぶ協議の末、予防医学としての意義があるとして、OTCとしての認可を得ることができました」 開発開始から16年あまりを経て、晴れてOTCとしての承認を得たアライ。一方で、「男性で腹囲85センチ以上、女性で90センチ以上」「服用1か月前の生活習慣改善記録の提示」など、購入にはさまざまな条件があるという。痩せたいという願望を持っている人は多いが、あらためてどういう人に向けた薬なのか。 「まさに、適正使用という部分がそこにあたります。18歳未満や、本来痩せるべきでない人の美容目的で服用はもちろん、食事や運動という本来必要な生活習慣の改善をせずに薬だけで痩せようとすることも公衆衛生上好ましくない。また、あくまで一般の方が自己判断で使用する市販薬であり医療用医薬品ではないので、病院での治療が必要な肥満症の方も買うことはできません。主に40~60代の、内臓脂肪が蓄積した年代の方をターゲットにしています」 一方、臨床試験では、服用後に「油や便が肛門から出る」「おならと一緒に便や油が出る」「便に脂肪が混ざる」といった特有の事象も報告されている。ネット上では、「いくら痩せたくてもさすがに人前で漏らして人生終わるリスクは負えない」「人としての尊厳を失ってまで痩せたいやついる?」など、“粗相”への懸念から使用をためらう声も根強い。 「消化器関係の副作用については、事実として6割程度の方に発現が認められましたが、飲んだら必ず漏れるというわけではありません。また、副作用が認められた方のうち服用開始後2週間以内に症状が出た人が8割で、多くは1週間以内に収まります。52週間の長期投与試験に参加いただいた方の中で治療中止を希望された方は120例中3例(2.5%)と、多くの方が通常の生活を送りながら長く服用いただけておりますので、人としての尊厳が損なわれるような事態はほとんど発生していないと考えております。それでもなおご心配な方は、おならが出そうになったらトイレに行ったり、生理用ナプキンや介護用のおむつなどで十分対策ができるかと思います。継続率も非常に高いことが分かっており、実際にご使用になっている方は、効果を感じられているのではと推察しております」 現在は話題性が先行しているアライだが、「OTCにより、自分の健康を自分で守っていくというセルフメディケーションのもと、社会保障制度の維持といった社会課題にも寄与し得る薬だと思っています」と担当者。“正月太り”が気になるこの時期、年明けという節目に生活習慣の改善に取り組んでみてはどうだろうか。
佐藤佑輔