月の薄い大気がどうしてできるかを解明、アポロ計画で持ち帰った50年前の月の土から
小さな隕石の衝突で月の表面が蒸発したものが7割
月には「外気圏」と呼ばれるごく薄い大気がある。「宇宙風化」という現象によって月面から放たれた原子が、弱い月の重力にとらえられるからだ。しかし、いくつかある宇宙風化現象のうち、どれが主に原子を外気圏へ供給しているのかは、これまでよくわかっていなかった。 ギャラリー:月の南極に着陸成功、インドの探査機チャンドラヤーン3号 写真5点 そこで、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の宇宙化学者ニコール・シークー・ニエ氏とその研究チームが50年以上前のアポロ計画で採取されたサンプルを分析したところ、「微小隕石」と呼ばれる非常に小さな隕石の衝突が、月の外気圏をつくる最も大きな要因になっていたことが明らかになった。この研究は、8月2日付で学術誌「Science Advances」に発表された。 月の表面は混乱に満ちている。太陽から放出される荷電粒子(太陽風)が月面に叩きつけられ、衝撃で月面の微粒子が舞い上がる。無数の小さな隕石が衝突し、当たった部分が高温に熱せられ、融解して蒸発する。さらに、太陽からの紫外線による刺激で、物質が月面から飛び出すこともある。これらが宇宙風化と呼ばれている。
月の石と砂のサンプルが改めて科学データの宝庫に
アポロ計画の宇宙飛行士が地球に持ち帰った月の石と砂(レゴリス)のサンプルは、私たちの月への理解を永遠に変えることとなった。また、サンプルの分析法が大きく進歩し、月のサンプルは改めて貴重な科学データの宝庫として見直されている。 ニエ氏のチームは、5カ所の着陸地点から採取された10個のサンプルを使用した。いずれも岩石が削られた粉末状の砂のサンプルで、それぞれ50ミリグラムほどしかなかった。しかし、少ない量でも「たくさんの情報をもたらしてくれます」とニエ氏は言う。 研究チームは、サンプルに含まれるカリウムとルビジウムの同位体を分析した。この2つの原子は、月面での宇宙風化の影響を特に受けやすい。また同位体とは、陽子の数は同じだが中性子の数が違う原子のことで、多くの化学的・物理的な特徴は共通しているものの、質量がわずかに異なっている。 外気圏に含まれるカリウムとルビジウムの同位体は、砂の中のものよりも軽いと考えられる。そして、風化プロセスの違いによって表面に残される重い同位体の比率は変わってくる。サンプルで測定された同位体の比率に基づき、研究者らは、どの宇宙風化の作用が外気圏に最も影響を与えているかを調べた。 紫外線に関しては、外気圏にすでにある原子を再利用して月の表面に戻す役割を果たしており、新たに原子を外気圏に供給する役割はあまり果たしていないことが過去の研究で示されていた。そこでニエ氏の研究チームは、ほかの要因として考えられる微小隕石と太陽風に焦点を絞った。